懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

離縁届にサインを…2

ドンドンッ！

「…。」
ガチャッ

「なんだい! しけた面して。
ほれ、離縁届。あんたここにさっさとサインしな。ここだよ、ここ。」

「…。」

エリーは、ブラッドがサインを渋ると思っていたが、案の定その通りになった。
どうやってもサインをしようとしないので、とりあえず話を聞くことにした。

「はあ～。あんたなにやってんのさ。そんなに落ち込むくらいなら
浮気なんてしなきゃよかったろうに。私にいわせりゃ、そりゃあ自業自得だね。」
「…。」
「仕事はちゃんと行ってるんだろうね？」
「仕事はしばらく休ませてもらうことになりました。
メグを…メグを探しに行きます。」

「メグを探しに行くって…例の女は？」
「メグに出ていかれて、すぐに別れました。」
「子供がいたってメグが言ってたけど？」
「あの子は、俺の子じゃありません。
本当の父親はあの子が生まれる前に亡くなったらしいです。」

「その親子に未練はないんだろうね？」
「全く。結局俺は、あの親子を助ける自分に酔っていただけなんだと思います。
俺が本当に馬鹿でした…。」

「はあ～。本当に馬鹿ったれだよ。あんは。なにやってんだかねえ。
メグのことがそんなに大事なら、なんでよその女に手を出しちまったのさ？」
「…その場の空気に最初は流されてしまって。でも、別れを切り出そうとあの女の家に行くと
それも嘘だったと分かりましたが。ははっ。」

「どういうことだい？」
「最初から、すべて向こうの計算道理だったみたいですよ。
子供の面倒を数時間頼まれた日に、子供が寝た頃合をみて、わざわざびしょ濡れで帰ってきたんです。
いきなりそのまま涙目で慰めてなんて抱きつかれたもんで。はあ～思い出したくない…
その気になる香ってのを、子供がいたってのに部屋に焚いてたみたいだし。
出会ったのは偶然だったけど、俺の見た目と騎士職ってのが気に入ったみたいで。
ついでに、子供の父親になって家計の面倒も見てもらいたかったらしいです。」

「なんだい、そりゃ。なんでそんなことまであんたが知ってるのさ。」
「関係を断ちに向こうの家に行ったときに、
あいつの家の前で友達だか何だかと、ベラベラしゃべってるのをきいたんですよ。
胸糞悪い。その気になる香ってなんなんだ。気持ち悪い。」

「そうかい。まあ、そんな状況でもあんたが断ればよかっただけの話だと思うがね。
っていうか、メグ以外の女の家に行ってる時点でダメじゃないか。
考えてごらんよ。もしメグがあんた以外の男の家に入り浸っても気にならないか？」
「絶対に嫌だ！そんな！」
「じゃあ、今回は、あんたがその女の家に入っていった時点でアウトってこったろうね。」
「…。」

「さあ、四の五の言わずにさっさとここにサインしな。」
「…。」

「っなんだよ！土下座なんかでごまかそうと思うなよ！」

「お願いです！一生のお願いです！！！メグの居場所を教えてください！
知ってるんですよね？？メグがどこにいるのか！その書類をメグに頼まれたってことは！
お願いします！お願いします！お願いします！
メグのお腹には俺たちの子供がいるんです！
心配でどうにかなりそうなんです！
メグがちゃんと寝てるのかとか、食ってるのかとか、ちゃんとしたところで暮らしてて、
金は大丈夫なのかとか、体は大丈夫なのかとか！
もしかしたら泣いてるんじゃないかとかっ！
俺なんかが心配したって、あいつにはもう迷惑な話かもしれないけどっ！
どうしても、どうしても、どうしてもっ！！ううっ…。あいつに会いたいんです…っ」

はぁ～。なんでこの馬鹿男は私の弱いところを突いてくるのかね。
そんなに頼まれちまったら、断るに断れなくなるじゃないか。
しかし、綺麗な顔してよくビービー泣くやつだねぇ。
涙なんか流して土下座って。本当に騎士やってんのか…？

あ～、どうすっかね。まいっちまったね。
ちょっと、メグに聞いてみなきゃいけないだろうね～。
四の五の言わせずにサインさせるなんて言っちまって、わたしも本当にだめだねえ。
はあ～。