1 / 26
歓喜と絶望
しおりを挟む
悪夢を見ているのだろうか。
目の前を幸せそうに、小さな子供を抱え歩いているのは、最愛の夫、ブラッドだ。
そのたくましい反対側の腕には、金に近い茶色の長い髪の儚げな女性の腕が絡められている。
パパ―と呼ばれるブラッド。その楽しそうな声が木霊する。
今から目の前にあるケーキ屋でケーキを買って、誕生日を祝うらしい。
全身から力が抜けていきそうなのを耐えるが、涙が頬を伝っていくのを止めることはできない。
妊娠2か月だと医師に伝えられ、うれしくて温かな涙が頬を伝った。
この喜びを早く彼に伝えたかった。
結婚3年目。学生の頃に出会ってからの付き合いで、この愛はお互いだけのもので、
年を取っても、たくさんの孫に囲まれてその愛情にあふれた温かな最期を送っていくのだと信じていた。
ブラッドは、金色の緩くウェーブがかった髪を短く切り揃え、逞しくあたたかな笑顔をいつも私に向けてくれていた。
女の子に大変人気ではあったが、その笑顔はいつも私にだけ見せてくれていた。
夜も疲れているとき以外や、月のものがあるとき以外は、甘く激しく愛を確かめ合ってきた。
これは悪い夢なのか、もしそうなら早く夢から醒めて、あの逞しい腕に早く抱きしめてほしい。
気が付いたら、ブラッドたちが入っていったケーキ屋の箱を抱きしめたまま、キッチンに立っていた。
いつの間にか、家にたどり着いたらしい。
ケーキの箱を強く抱きしめていたみたいで、腕も服もケーキでべちょべちょになっていた。
特別な日にだけ購入する、少し値が張るがお気に入りのケーキだ。
明日ブラッドが帰ってきたら、これでささやかなお祝いをしようと、明日を待てずに買いに行った。
静かなキッチン。
ブラッドと二人で、このキッチンのテーブルや、カーテンなどを選んだ時の楽しい思い出がよみがえる。
たった何年か前のことなのに、はるか昔、いや、だれか他人の話を思い出しているようだ。
走馬灯のように今までの思い出が頭の中を駆け巡る。
涙と一緒にこの悪夢も流れて消えてくれればいいのに。
仕事の都合で、今晩は騎士団に泊まり込みだと言っていたブラッド。
懐妊の喜びは、あっという間に絶望という名の濁流に押し流されそうになりながら、
静かな夜はひっそりと過ぎていった。
目の前を幸せそうに、小さな子供を抱え歩いているのは、最愛の夫、ブラッドだ。
そのたくましい反対側の腕には、金に近い茶色の長い髪の儚げな女性の腕が絡められている。
パパ―と呼ばれるブラッド。その楽しそうな声が木霊する。
今から目の前にあるケーキ屋でケーキを買って、誕生日を祝うらしい。
全身から力が抜けていきそうなのを耐えるが、涙が頬を伝っていくのを止めることはできない。
妊娠2か月だと医師に伝えられ、うれしくて温かな涙が頬を伝った。
この喜びを早く彼に伝えたかった。
結婚3年目。学生の頃に出会ってからの付き合いで、この愛はお互いだけのもので、
年を取っても、たくさんの孫に囲まれてその愛情にあふれた温かな最期を送っていくのだと信じていた。
ブラッドは、金色の緩くウェーブがかった髪を短く切り揃え、逞しくあたたかな笑顔をいつも私に向けてくれていた。
女の子に大変人気ではあったが、その笑顔はいつも私にだけ見せてくれていた。
夜も疲れているとき以外や、月のものがあるとき以外は、甘く激しく愛を確かめ合ってきた。
これは悪い夢なのか、もしそうなら早く夢から醒めて、あの逞しい腕に早く抱きしめてほしい。
気が付いたら、ブラッドたちが入っていったケーキ屋の箱を抱きしめたまま、キッチンに立っていた。
いつの間にか、家にたどり着いたらしい。
ケーキの箱を強く抱きしめていたみたいで、腕も服もケーキでべちょべちょになっていた。
特別な日にだけ購入する、少し値が張るがお気に入りのケーキだ。
明日ブラッドが帰ってきたら、これでささやかなお祝いをしようと、明日を待てずに買いに行った。
静かなキッチン。
ブラッドと二人で、このキッチンのテーブルや、カーテンなどを選んだ時の楽しい思い出がよみがえる。
たった何年か前のことなのに、はるか昔、いや、だれか他人の話を思い出しているようだ。
走馬灯のように今までの思い出が頭の中を駆け巡る。
涙と一緒にこの悪夢も流れて消えてくれればいいのに。
仕事の都合で、今晩は騎士団に泊まり込みだと言っていたブラッド。
懐妊の喜びは、あっという間に絶望という名の濁流に押し流されそうになりながら、
静かな夜はひっそりと過ぎていった。
703
お気に入りに追加
4,866
あなたにおすすめの小説
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
あなたの嫉妬なんて知らない
abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」
「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」
「は……終わりだなんて、」
「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ……
"今日の主役が二人も抜けては"」
婚約パーティーの夜だった。
愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。
長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。
「はー、もういいわ」
皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。
彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。
「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。
だから私は悪女になった。
「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」
洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。
「貴女は、俺の婚約者だろう!」
「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」
「ダリア!いい加減に……」
嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?
【完結】浮気された私は貴方の子どもを内緒で育てます 時々番外編
たろ
恋愛
朝目覚めたら隣に見慣れない女が裸で寝ていた。
レオは思わずガバッと起きた。
「おはよう〜」
欠伸をしながらこちらを見ているのは結婚前に、昔付き合っていたメアリーだった。
「なんでお前が裸でここにいるんだ!」
「あら、失礼しちゃうわ。昨日無理矢理連れ込んで抱いたのは貴方でしょう?」
レオの妻のルディアは事実を知ってしまう。
子どもが出来たことでルディアと別れてメアリーと再婚するが………。
ルディアはレオと別れた後に妊娠に気づきエイミーを産んで育てることになった。
そしてレオとメアリーの子どものアランとエイミーは13歳の時に学園で同級生となってしまう。
レオとルディアの誤解が解けて結ばれるのか?
エイミーが恋を知っていく
二つの恋のお話です
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる