もう少し早く気が付けば君を失わずに済んだのだろうか、なんて後悔をあなたはきっとしない。

梅雨の人

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「…申し訳ございません」 

「それで、足の具合はどうだい?長旅で疲れただろう?」 

「そう…ですね。特に変わりはありませんわ。」 

「そうか…マリア。全て私があの夜会で君を驚かせてしまったせいだ。すまなかった。もう二度とあんなことは起こらないと誓おう。私がマリアの足になり続ける。だからこれからは私を信じてついてきてほしい。…マリア?…ああ、君はそんな風に静かに涙を流すのだね。…抱きしめても?」 

「…お帰りください。」 

「マリア嬢…失礼。ああ、体が震えている。これで涙を…おい、そこをどいてくれ。」 

フェリックス様が私とアベラルド様の間に入ってハンカチで涙を拭って下さるのを、アベラルド様が忌々し気に見下ろしております。

「…なぜ護衛ごときがマリアの涙をぬぐい、体を支え、婚約者である私よりもマリアに近いんだ?」 

「キンブリー侯爵が私をマリア嬢の護衛につけて下さったのです。」 

「キンブリー侯爵が…?手強いな。なるほど…仕方ない。また明日来る。疲れただろう?ゆっくり休むんだよ、マリア。」 

案外、あっさりと部屋を出ていかれたアベラルド様の姿が見えなくなってどっと疲れがこみあげて参りました。 

「疲れたか、マリア嬢。寝台まで運ぼう。」 

ゆっくりと寝台の上に私を下ろしてくださったフェリックス様はまるで壊れ物を扱うかのように丁寧に上掛けをかけてくださいます。 

「奴に対して俺をかばおうとしなくていいぞマリア嬢。気持ちはありがたいが、俺はやられたらやり返す質なんだ。だから心配しなくていい。」 

「…そう…フェリックス様…少し…だけ…こうして……て…」 

そう応えるのがやっとで、ふわふわと夢心地の中静かに意識を手放したのでした。

ーーーー

「っ!」 

「なんだ、子爵令息如きと思っていたが「勘」はいいようだな。」 

「…まさかの待ち伏せとは。」 

「残念だよ、この刃が君に掠れもしなかったとは。目障りな子爵令息殿。まあいい。君のおかげで私の大事なマリアが今も生きていることが出来たのだから。ああ、心配無用だ。王家にさえ報告せずにマリアをかくまっていた件については不問となったようだからな。実に君は運のいい男だな。マリアが王都に戻ってきたときにまだ貴様がマリアの側にいるようなら覚悟をしておくことだな。必ず潰してやるよ。」 

「健闘を祈りますよ。お帰りはあちらからです。」 

「…私はマリアを誰にも譲る気などない。覚えていろ。」 
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