泣き虫エリー

梅雨の人

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初恋

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弟ダンが5歳になり姉弟で協力して一通りの家事やお使いをこなせる様になった。

相変わらず、姉弟の母親は働きづめでかなり辛かっただろうに、疲れた顔一つ見せず少しでも時間が出来れば姉弟と一緒に時間をすごそうと頑張ってくれていた。

どうにかこの大好きで頑張り屋の母の力になりたかったエリーは、近所の手伝いやら軽いものの配達など、子供でも出来る仕事を探してきてはダンを引き連れて小遣いを稼ぐようになった。

苦労する母と姉の背中を見ながら育っていたダンは、幼いながらに状況を理解していたので、他の5歳児よりかなり聞き分けがよく機転の利く子供に育っていた。

そして、寒い日も、暑い日も、雨が降っているときも弟のダンと一緒になって母親の手助けをしようという姉弟を、いつしか近所の大人たちも温かい目で見守ってくれるようになっていた。

「なんだ、エリー!また配達なんてやってんのか?!だっせーの!」
その日もいつものように近所の悪ガキからヤジが飛んできた。

「…大丈夫、大丈夫…」
そう言って、弟の手をぎゅっと握ったエリーは半泣きで涙がこぼれるのを必死に耐えていた。
いつも悪ガキどものやることに、毎度落ち込む打たれ弱い姉は、それでもダンの手を握り守ろうとした。

「おっ、また泣くのかエリー!ははっ…げふっ!」
「お前またエリー泣かせてんのか!いい加減にしろよ!」

姉弟に救いの手を差し伸べたのは、数年前にこの街にやって来て最近この姉弟にお使いを頼んでいる店の息子のロニーだった。

「エリー、ダン大丈夫か?ああ…エリー。」

そう言って颯爽と救いの手を差し伸べたロニーは己のシャツをグイッと伸ばしてエリーの涙を優しく拭ってやった。
二歳年上のロニーはエリーより背もぐんと高くとても頼りになる存在だった。

「ロニーありがとう…。」
「気にしないでエリー…。それ、配達する分だよね?手伝わせてよ。」

「そんな…ロニーに悪いわ。私が任されたものだし。」
「そっか…。」

「姉ちゃん、ロニー兄ちゃんにが一緒に歩いてくれると俺嬉しいな。ねえ、ロニー兄ちゃんいいだろ?」
「ああ!もちろん。よしっ、じゃあ、ダン、エリーいこう!」

自分もいつか強く逞しくなって、姉ちゃんを嫌な奴らから守って見せるんだと決めているダンにとって、ロニーは憧れだった。

貧しく、近所の手伝いをしなければ生活が厳しい姉弟のことを馬鹿にする子供連中ばかりなのに、ダンはそんな姉弟のことをいつも気にかけ今日みたいに嫌な奴らから守ってくれる。

そしてエリーにとってもロニーにとってもお互いが初恋の相手だった。
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