愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
14 / 27

新しい学園生活

しおりを挟む
「では、行こうか。」
「はい、マーカス様。どうぞよろしくお願いいたします。」

今日、このシューゼント王国での学園生活が始まった。
緊張した面持ちの私が馬車から降りるのを優しく支えてくれるマーカス様に、思わず笑みが零れた。

一歩馬車から外へ足を踏み出した私ををエスコートして一緒に歩いてくれるマーカス様に安心感を抱いた。

周囲の生徒からはなぜか、ざわめきが起こったが、一足先に留学を終えこちらの学園生活に戻っていたマーカス様は慣れたもので、我関せずといった感じで歩を進めていた。


事前に知らせてもらっていた通り、マーカス様とは同じクラスで席も隣同士に配置されていた。

マーカス様の留学先での知り合いというだけで、クラスの皆とも徐々にだが打ち解けることが出来て安心した。

マーカス様の幼馴染でクラスメイトのザッカリー様とその婚約者のバネッサ様とは友人と呼べるほどにすぐに仲良くなった。

放課後になればマーカス様と図書館に行ったり、バネッサ様達とも一緒にカフェに行ったりと充実した毎日を送っている。

こちらのデザートで使われているクリームには、このシューゼント王国でしか収穫されないポポアという果物が使われているものが多く、これだけでもこの国に留学に来てよかったと思ってしまう。

そんな私は今日も学園後にマーカス様、バネッサ様、ザッカリー様と四人でカフェに来ている。
このカフェも最近人気のカフェで、デザートの種類が豊富なのと独創的な盛り付けに特徴がある。

そして私の今日オーダーしたデザートはポポアのクリームをふんだんに使ったもので、口に入れたとたんフワフワっと溶けるような触感の、本当に美味しいケーキだった。

あまりにも美味しすぎて、クリームが口の端についてしまったのに気が付かない私に、バネッサ様がそれとなく教えてくれた。
私がハンカチを取り出す前にマーカス様がスッとその指で拭って下さった。
そのクリームのついた指をペロッと舐めたマーカス様を見て、羞恥のあまり急に顔が熱くなってしまった。

あっ、ごめん思わず…と一言溢したマーカス様だったが、なぜか真っ赤になってその顔を掌で隠すようにうつむいて固まってしまった。

そんなマーカス様を見て、ザッカリー様はあんぐりと口を開てしまっていた。



そして、実はマーカス様は、頭脳明晰で剣術の腕も学園では敵うものがいないらしい。

剣術の訓練をするザッカリー様に差し入れを持っていくバネッサ様につきそって、私もマーカス様の差し入れをもってその訓練の様子を見学した。

間近で見るその訓練は厳しく激しいものだった。
いつもの穏やかで明るいマーカス様が汗を流して剣術の訓練に励んでいるのを見るのは、なんだか私の知らないマーカス様の一面を見ているような気がした。

マーカス様の留学中から気が付いてはいたが、女生徒からの人気はとても高く、多くの女の子たちがマーカス様に熱い声援を送っていた。

訓練が終わって、一直線に私たちのところにマーカス様とザッカリー様が走ってきた。

バネッサ様はザッカリー様の汗を拭ってあげていて、ザッカリー様はバネッサ様の持っていらした差し入れを美味しそうに味わっている。

私もマーカス様にタオルと差し入れを渡すと、とても喜んでくれた。
マーカス様は片手で汗を拭きつつ、差し入れを反対側の手で器用に食べていた。

片手で汗を拭くマーカス様が少し不憫に思えたので、一言ことわりをいれてから、私のハンカチで拭いきれていない汗を拭わせてもらうことにした。

私の申し入れに、少し固まってしまったマーカス様だったが、すぐに了承の言葉を頂いたので残っていた汗を丁寧に拭わせてもらった。

汗を拭っている間、私もマーカス様も無言になってしまって少々気まずい空気が流れてしまった。

なんだか余計なお世話だったかなと思ってしまったが、マーカス様が顔を真っ赤にしてありがとうとおっしゃってくれたのでほっとした。

そのハンカチは汚れただろうからとマーカス様に没収され、今度の週末に一緒に新しいハンカチを買いに行くことになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

処理中です...