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「ラシータ、申し訳ないけど少し席を外すよ。ロナルド、ラシータを頼んだぞ。」

そう言って商談で席を外すセガールの後ろ姿を見送った。

セガールから解放された緊張感から一気に解かれたかのように震えが止まらない。

周囲に気が付かれないようにぐっと力を込めて震えが収まるのを待つのも何回目になるだろう。

不貞を犯しながらも私を溺愛してくるセガールに底知れぬ戸惑いと何とも言えない不快感、しかしそれでも時間がたてば以前のように戻れるのではという希望が入り乱れて気分が落ち着かない。

「ロナルド、いつもありがとう。」

護衛として私についていてくれるロナルドは、セガールが私のそばを離れると同時に震えだすことに気が付いているようで、そっとショールを肩にかけて椅子の配置されたテーブル席までエスコートしてくれる。

ようやく噂話も収まってきて、以前のような穏やかな時間を社交の場で過ごせるようになっていた。

皆のようにセガールとカトレア様のことを私も忘れることができてしまえばいいのにーーー。


「ふぅっ」

「大丈夫ですか、ラシータ様?」

「ごめんなさい、気が緩んでしまっていたわ。」


それからたわいもない話をロナルドとしていた私のもとに、まねかざれる客が現れた。

私が気が付くよりも先にロナルドが反応して私をかばうように前に立ちはだかってくれた。

「ふふふっ、怖い怖いっ。ただ少しラシータ様にご挨拶させていただこうかと伺っただけですのに。またの機会にさせていただきますわね。セガール様にもぜひよろしくお伝えくださいませ。」

せっかく噂が収まってきたというのに、セガールが商談で少し私から離れてしまったすきを見計らってはカトレア様が私に接近してきた。

ロナルドが私とカトレア様の間に立ちはだかるようにしてくれているが、さすがにカトレア様を黙らせることははできなかった。

「いつもセガール様にお世話になっています。」

そんなセリフから始まり、あの時の香水が素敵だったとか、ついにはセガールが昂った時の声が素敵などと早口で告げるカトレアに、ロナルドが一歩踏み出した。

「ひっ!」

恐れをなしたカトレアが慌てて立ち去るのを青い顔したラシータは何もできずにただ見送ることしかできなかった。
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