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「本当に何があるのか分かったものではないですこと…」

「公爵夫人もおかわいそうに…。あんなに完璧な夫婦で羨ましいと思っていたのに…ねぇ…。クスクスッ」

「おい、聞いたか?先月の夜会で夫人が具合が悪くなって護衛騎士と屋敷に戻った夜のこと。」

「ああ…。実は誰とは言わないが以前からも目撃した者たちがいるらしいぞ。」

「しかし羨ましいな。あんな綺麗で魅力的な夫人がいる上に、そんなことまでしてくれる女までいるなんてな。」


「ラシータ、疲れただろう。少し休憩しよう。」
「ええ、そうね。」

私が急に体調を崩してセガールを置いて帰宅した夜会の日以降、セガールの不貞の噂がささやかれるようになった。妻を溺愛していたはずの男の不貞とあって、あちらこちらから視線を感じる。

次期公爵夫妻とあって面と向かって面白がるものはいないが、周囲から囁くように聞こえてくるそれらの会話に私たちは沈黙を貫いていた。

色々思うところもあるがセガールも平然としているので習い私もそれに倣っている形だ。

「ラシータ、ここへ。」

「ええ、ありがとう。セガール。」

二人掛けの椅子に腰かけた私の隣に当然のようにぴったりと寄り添うセガールは、流れるように私の肩を抱き寄せた。

「ラシータ、今日も本当にきれいだよ。できるものならずっと閉じ込めて誰の目にも触れさせたくない。」

そう言って顔を近づけてくるセガールに以前の私なら胸の高鳴りを抑えられなかっただろう。

「皆が見ているわ、セガール…お願い、今はやめて。」

「ああ、恥ずかしがり屋さんだね、ラシータは。仕方がない、屋敷に戻ってからのお楽しみに取っておこう。」

チュッと鼻先にキスをしてきたセガールは、ふっと色気駄々洩れの笑みを浮かべた。

その瞬間そこかしこから女性たちの悲鳴のような声が聞こえてきた。

以前にもましてセガールの私に対する執着がひどくなったようで、席を外す時でも自分の目の届く距離に私を置きたがった。

常にぴったりと私に寄り添い、愛を囁いているセガールを見て、次第に周囲もあれはただの気まぐれだったのだと思うようになったのか、噂話も次第に落ち着いていった。 
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