雪とともに消えた記憶～冬に起きた奇跡～

11

熱が冷めたのか、すっきりとした気分で目が覚めると、そこにはネルが椅子にもたれかかって眠りに落ちていた。


「ラシータ様!よかった…。」

ずっと私についていてくれていたのだろうネルから離れた扉のすぐそばにロナルドの姿が目に入った。

ロナルドを見るとこの何日かで起こった出来事を一瞬で思い出し、今の自分の状況を頭の中で整理した。

当然のことをしたまでですとばかりに、ただ頭を下げたロナルドに、あんな醜態を見せてしまったのだと思うといたたまれなくなった。


バンッ！

いきなり扉が開いたかと思うとセガールが慌てて入ってきた。

「ラシータ！今ラシータの声が聞こえた気がして…ああ…よかった。目が覚めたんだね、ラシータ…。」

そう言ってセガールは私を抱きしめてきた。


パシッ

「ラシータ…？」

「ごめんなさい、その…何日も体を洗っていないから、気になって…。」

「ああ、そんなこと気にしなくていいのに。何なら私が君を綺麗にするのを手伝おうか？」

「それは…それはネルにお願いしたいの…。お願いセガール。」

「はぁっ…ずるいよラシータ。君には絶対にかなわないって知ってるのにさ。」


ゆっくりしておいでと言って部屋を立ち去ったセガールを見て、わつぃは思わず大きなため息を吐いてしまった。

その後、ネルとほかの侍女らに支えられて身体を磨かれた私は再び寝台の住人となった。。

熱が下がったと思ったのに、身体を綺麗にしただけで再び疲れを感じてしまったのだ。

瞳を閉じた私はすぐさま意識を手放した。


『セガール様！んっ…』

『うるさい、声を抑えろ。さっさとするんだ…。』

声が聞こえて振り返ると、暗闇の中、大きな木を背にして立ちすくむセガールに向かって跪いたカトレア様が見えた。

「…っっ！」

震えて動けない私はただ震えて立ち尽くしていた。

『誰だ！』

『あら…やだ…ラシータ様。ああ…ちょうどよかったわ。ねえ、セガール様をわたくしに譲ってくださらない？』

『ああ、ラシータか。…すまないラシータ。君のことも愛しているけど…カトレアのことも愛しているんだ。私はカトレアとの子を望んでいる。君ならわかってくれるよね？』

そう言って抱き合うセガールとカトレア様を私は呆然として見つめるしかなかった。