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屋敷に到着したけれども、涙で化粧もボロボロで悲惨な私の姿を屋敷の者に見せることはできない。

一応まだ侯爵家嫡男夫人なのだから…。

どうしよう…



「ラシータ様、再びあなたに触れることをお許しください。」


頭上から優しくロナルドの声が響いたと同時にふわっと抱きかかえられた。

肩にかけてくれていたジャケットを頭からすっぽりとかぶせられた私は、ロナルドの腕に抱かれて部屋に運ばれていった。

私の様子に驚いたネルがすぐに駆けつけ、聞きたいことはたくさんあるだろうに何も言わずにドレスを脱がせ着替えさせてくれた。

冷たく絞った布が瞼に気持ちがよくて、初めて使う私自身の寝台の上で横になるといつの間にか眠ってしまっていた。

だから、息を切らして屋敷に戻ってきたセガールが私の部屋に押し入ってきたことを後にネルに教えられて、ほっと胸をなでおろした。

もしもあの時私の意識がまだあれば、急いで帰ってきたセガールをひどく責めていたと思うから…。
セガールを愛している。

でもセガールはカトレア様と…。

分からない…。

何が正解なのかまだ分からないから。

翌朝目覚めた私は隣に誰もいないことに気が付いて、結婚してから初めて一人で夜を過ごしたのだと思い出した。

コンコンッ

「ラシータ、入るよ?」

私が返事をする前に扉が開いた。

両手いっぱいに花を抱えたセガールが満面の笑みを浮かべて入ってくるのを呆然と見やった。

「ラシータ、気分は…いや…おはよう、ラシータ。愛してるよ。」

「…。」

「ラシータ?なぜ何も言ってくれないんだ?いつもみたいに君の笑顔を見せてくれ。…ああ、そうか、君は昨日勘違いしたんだったね?」

「…勘違い…?」

「きっと私と君以外の女が浮気しているのではと思ったのでは?」

「…。」

「無言は肯定と受け止めるが?ひどいね。私は君のことだけを愛していると伝えてきたはずだが?

君以外の女になんて興味もなければ指一本たりとも触れようとも思わない。君以外の女に愛を囁くなんて絶対にあり得ない。」

「でも…あれは…」

「ああ、あれはただ着飾ったラシータが綺麗すぎて…発散しなければどうにかなりそうだった私を見つけて…あの女が勝手にやっていただけだ。」

「それでも…それでもあなたは…あれが初めてではなかったわよね?」
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