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あの夜会の日、夫は最後まで私のそばを離れることはなかった。

カトレア様が同じ会場にいたのに、私のそばから離れることもせず、帰りの馬車の中で私に口づけをしてきた。



そしてそれからも社交の場でカトレア様も同じ会場にいることはあったが、セガールは目もくれず私にずっと寄り添ってくれていた。


ーーーだから油断していたのかもしれない。

「ラシータ、すまないがちょっと席を外すよ。飲みすぎたみたいでね。すぐに済ませてくるから待っていてくれ。」

そう言い残したセガールは会場を颯爽と抜け出していった。

「ラシータ様、お飲み物はいかがですか?」

「ロナルド、気を利かせてくれてありがとう。ゆっくりと飲みたい気分だからまだ大丈夫よ。」

セガールが会場を抜け出す際にさっと私に寄り添ってくれているのは私専属の護衛騎士のロナルドだ。

さすがは公爵家嫡男といったところか。

どの社交場に行くにも、会場にまで一名の護衛騎士の入場が許されている。

そして本来侯爵家嫡男であるセガールに護衛騎士をつけるべきなのに、セガール立っての望みで私専属の騎士がセガールのいない間は私に寄り添ってくれている。

「くしゅんっ」

「ラシータ様、少し体が冷えますか?」

「ごめんなさい、恥ずかしいわ。どうしちゃったのかしら、そんなに寒くはないのに…私もお化粧直しに行ったほうがよさそうね。」

「お供します。」

そう言ってロナルドと共に会場を抜け出した瞬間、セガールの後ろ姿が暗闇に消えていくのが見えてしまった。

「あれは…」

ズキリと胸が痛むのを感じるが、足はすでにセガールを追いかけていた。

「ラシータ様、行かないほうが…」

考え込むようにそう告げるロナルドはそれでも私を止めずについてきてくれていた。


「セガール様!うれしい!私に会いに来てくださったのですね…ずっと、ずっと来てくれなかったから。すごく寂しかったです…」

「…早くしろ…」

何?一体二人は何を言っているのーーー??

暗闇の中で目を凝らすと、セガールの前に膝まづいて奉仕するカトレア様が目に入った。

震えて立ちすくむ私は、ロナルドが優しく私の腕を引き、その場から連れ出してくれていることに気が付けないでいた。
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