見捨てられたのは私

梅雨の人

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東吾2

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何度も傷つき落ち込む小雪を目にするたびに、大河内亮真に対して怒りを覚えた。 

大人になった小雪は昔の面影を残し、心根も優しくまっすぐで、昔と同様今でも俺の頭の中を一気に占領してしまった。 

小雪は人妻だ、小雪が幸せだと思うのならと、ぐっと心の内の感情を抑えていたが、やっと小雪が自分から大河内亮真から離れようとした時、俺に落ちて来いと心から祈った。 

 
あの日、小雪を攫うようにして大河内家を後にした車内で、小雪は俺に体を預けて眠ってしまった。 

絶対に…絶対に小雪を今度こそ俺は小雪と夫婦になるのだと心に決めて、それからは恥らいも何も捨てて突っ走るようにしてようやく小雪と夫婦となることができた。 

 

それからの日々は夢のように幸せで、いつも俺たちは寄り添い続けた。 


二男二女を設けた俺たちは賑やかで笑いの絶えない日々を過ごした。 

俺は小雪の夫で、子供たちの父親でとても幸せだった。 

 
子供たちはあっという間に成長し、皆伴侶を得た。 

小雪とゆっくり過ごしたくて、早々に家督を息子に譲って引退した俺は、小雪と供にのんびりとした日々を送った。 

それから月日は流れ、気が付けば俺達はたくさんの孫に囲まれていた。 

 

一日中小雪と寄り添っては思いついたように二人で長旅に気の向くままに出かけたりもした。

お土産を抱えて帰るのを孫たちが待ち構えているのを心得ている小雪と俺は、あれが良いこれがいいと言って、結局多すぎる土産を抱えて帰っては娘や息子たちを呆れさせていた。 

楽しい日々はゆっくりとだが確実に過ぎ去って俺たちは一緒に老いて行った。 

年をとっても穏やかで心優しい小雪はそのままで、いつまでたっても愛おしさは募るばかりだった。 

 
いつしか孫たちも成長し、ひ孫もたくさん生まれた。 

娘も息子も孫もひ孫も、頻繁に私たちに会いに来てくれて笑いが絶えない日々を送っていた中、小雪が倒れた。 


余命幾ばくしかないと診断され、小雪に悟られないようにしながら一人で涙を流した。 

できうる限りの伝手を頼って小雪を治療しようとしたが、もう手遅れだった。 

 

離れがたくて小雪のそばに俺は寄り添い続ける日々を送った。 

小雪は自分の寿命が近づいているのに気が付いているのか、どれだけ俺と夫婦になれて幸せな日々を送ってこれたのかを毎日のように俺に聞かせてくれた。 

本当に、本当に幸せだったのよ、と言って幸せそうに微笑む小雪を失う恐怖とともに、小雪が幸せな人生を送ることが出来たと言って微笑んでくれる現実に自分を納得させようとする日々を繰り返した。 

 

「小雪、俺と一緒になってくれてありがとう。愛しているよ小雪。ずっと…ずっとだ…」 

 
聞こえているのかどうか定かではなかったが俺は小雪にそう囁いて、瞳を閉じてしまった小雪に口づけた。 
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