見捨てられたのは私

梅雨の人

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亮真7

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小雪が、私の妻の小雪が赤の他人になってしまった。 

あんなに愛していたのに、大事にしたいと思っていたのに。 

薄情な私は琴葉義姉さんが離縁されその後どうなったかを知ってももう何とも思うこともなかった。 

そう嘆いていたら太賀兄さんに言われた。 

「大事にしたいと思っていただけで、実際にお前が小雪さんの目の前で大事にしていたのは琴葉だった。お前は一体何がしたかったんだ?」 


思い返してみればその通りでぐうの音も出なかった。 

それから半年ほどたったころあの一宮東吾が妻をめとったと話題になった。 

藤堂孝一朗とならと並び鉄道事業と貿易業で今や飛ぶ鳥を落とす勢いの一宮東吾。 

斬新で先鋭的な発想は世の人々を魅了し、外国での知識と経験と人脈を生かした事業を拡大し、おまけに嫌味なほどに整った容姿をしたあの男が娶った噂の新妻。 

それが誰だか見当はつくのにどうしても認めることが出来なくてさらに自分の殻に引きこもろうとしたが、周囲の連中が私をかわいそうなものを見る目を寄こすのでそれが嫌でも小雪だと理解した。
 

『そんなになるくらいなら小雪さんを一番に、いや違うな。小雪さんだけを大事にすればよかったんだ。』 

太賀兄さんに言われた言葉が今でも心に痛いほど突き刺さる。 


ある日、私は偶然一宮東吾に出くわした。 

 

「やあ」 

「こんにちは」 

「小雪さんは幸せにしているよ」 

「…そうですか」 

「これからは彼女には嬉し涙しか流させないから安心してくれ。よかったじゃないか、これで心置きなくあの義姉とくっついていられるぞ?じゃあ。」 

 
嬉し涙しか流させないから安心してくれだと? 

私だって小雪に嬉し涙を流させたことが…一度もなかった。 

これまでずっと苦痛の涙しか流させていなかったのかもしれないとそこで気が付いた。 

 
小雪に近づいた時点で大河内家に対して藤堂家及び一宮家から制裁を与えられることになっているので、もう小雪に近づくことが出来ない。 

今の私にはそれは最もつらい罰だと藤堂孝一朗も一宮東吾も理解していた。 
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