見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
131 / 147

125

しおりを挟む
大勢の招待客の方々を目の前にお兄様と東吾様にはさまれるように立ち並び記念式典が粛々と過ぎてゆきます。 

ふと視線が気になってそちらの方向に目を向けますと、吸い込まれるように一点に目が行ってしまいます。そこには一番後ろの隅の方に佇む亮真様が立っておりました。 

このようにたくさん人がいる中でお互いの視線が絡み合っているのが分かります。 

大河内の家を逃げるように出てきたあの日以来初めて目にする亮真様は、心なしかお痩せになられております。 

私と目が合って一瞬不安な表情をされた亮真様を見てももう心を動かされることはありませんでした。そんな私自身に安堵いたします。 

思いつめたような表情の亮真様に、以前のように溌溂とされた表情に戻られますように、あなた様も幸せになりますようにと願いを込め、せめてもと笑顔を手向けさせて頂きます。 

すると亮真様の口元が、「幸せに」と告げてくださった気が致しました。 

頷いた私に亮真様は安堵の表情を向けてこられているのを見て、お別れもまともに出来ませんでしたが、ようやくこれで亮真様ときちんとお別れすることが出来たように思えました。 

 
◇◇◇◇
 

「それで、小雪。誰に笑顔を向けていたんだ?」 

完成式典がつつがなく終了し、帰路に就いた私に東吾様が詰め寄って参りました。 

笑顔ですのに目が笑っておられない東吾様に、先ほどの亮真様とのやり取りをありのままに説明させて頂きます。 

 
「そうか…馬鹿だよなああいつも。まあそのおかげで小雪が今ここにいるわけだし…」 

一人でぶつぶつつぶやく東吾様がようやく納得されたのかこちらを振り向かれました。 

「小雪、今更だが俺と夫婦になって後悔はないか?」 

「東吾様、絶対に後悔などございません。幸せなだけでございます。東吾様の妻となれたことを後悔する日など絶対に訪れませんよ。」 

多少強くそう言った私を珍しく気弱になられている東吾様は抱きしめてくださいます。 

「男の焼きもちは醜いか?」 

「いいえ、焼きもちを焼いてくれてとても幸せ者でございます、東吾様。」 

「そうか?」 

「ええ、東吾さまだから嬉しいのですよ?だって東吾様は私の旦那様なのですから。」 

「そうか、そうだよな!」 

機嫌を直された東吾様がゆっくりと顔を近づけてこられたのでゆっくりと瞳を閉じます。 

愛する人の口づけに心からの幸せを今日も感じることのできた一日でございました。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

ごろごろみかん。
恋愛
旦那様は、私の言葉を全て【女の嫉妬】と片付けてしまう。 正当な指摘も、注意も、全て無視されてしまうのだ。 忍耐の限界を試されていた伯爵夫人ルナマリアは、夫であるジェラルドに提案する。 ──悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

気づいたときには遅かったんだ。

水無瀬流那
恋愛
 「大好き」が永遠だと、なぜ信じていたのだろう。

〈完結〉【コミカライズ・取り下げ予定】思い上がりも程々に。地味令嬢アメリアの幸せな婚約

ごろごろみかん。
恋愛
「もう少し、背は高い方がいいね」 「もう少し、顔は華やかな方が好みだ」 「もう少し、肉感的な方が好きだな」 あなたがそう言うから、あなたの期待に応えれるように頑張りました。 でも、だめだったのです。 だって、あなたはお姉様が好きだから。 私は、お姉様にはなれません。 想い合うふたりの会話を聞いてしまった私は、父である公爵に婚約の解消をお願いしにいきました。 それが、どんな結末を呼ぶかも知らずに──。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...