見捨てられたのは私

梅雨の人

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「小雪、ついにあの橋が完成したぞ!完成予定がかなり遅れてしまったが後の祭りだ。ちなみに完成式典は来週だ。」 

「あの大きな橋ですか?完成したのですね!お兄様も東吾様も本当にすごい!」 

「だろう、だろう、小雪!」 

いつにもまして上機嫌の東吾様はとてもうれしそうにしておられます。 

「では完成式典に合わせて至急東吾様の衣装を揃えさせていただきますね。」 

「俺のは何でもいいから気にしなくていいぞ小雪。それより小雪の準備だ。やっとお披露目ができるな。小雪っ、俺と一緒にきてくれ!」 

東吾さまの背後に激しく揺れる尻尾が見える気が致します。 

「よーし、小雪、あけるぞ?いいか?せーの!」 

東吾さまの開けた扉の向こう側には見事な色留袖が丁寧に掲げられておりました。 


「黒留袖も考えたんだがな、断然こんなうっすらした色の留袖の方が小雪に似合うだろうと思ってこれにしたんだ。気に入ってくれたか?」 

「ええ、ええ、東吾様。素晴らしいですわ。この淡い色合いもとても素敵でございます…。」 

その後しばらく東吾さまの用意してくださった留袖にうっとりとしている私を、それはそれはご満悦の表情をされた東吾様が見つめておられました。 

「小雪も式典に俺と一緒に参加してくれ。ある意味小雪が主役のようなものだからな。その日は賢吾は乳母に任せたらいい。楽しみだなあ小雪!」 

「ええ、そうでございますね、東吾様。」 

何が何だかわかりませんが、嬉しそうにされる東吾様に否を相変わらずいうことのできない私は、なぜだか橋の完成式典に東吾様と出席することになりました。 

 

◇◇◇◇ 


「小雪橋、だよ、小雪。」 

「小雪橋…本当にその名前にされたのですね、お兄様?」 

「ああ、以前そのように伝えていただろう?」 

「まさか本当にそうなさるとは思っておりませんでしたので…」 

「なんだ小雪、恥じる必要はないぞ。素敵な名前じゃないか。ちなみに小雪の名付け親は俺だ。」 

「お父様やお母さまではなくてお兄様が…?」 

「ああ、いい名前だろう?とにかくこの橋の名前はお前から取ったんだよ。立派な橋に引けを取らないいい名前だ。」 

満足そうにうんうん頷いているお兄様に言葉をなくしてしまった私は東吾様を仰ぎ見ました。 

「孝一朗、…お前…たまにはいい仕事もできるんじゃないか。見なおしたぞ義兄よ!」 

「だろう義弟よ!」 

変なところで意気投合しておられる二人にはさまれるような立ち位置から逃れることも出来ません。周囲の若干引き気味の視線をものともしないお二人に唯々苦笑が漏れてしまいます。 
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