見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
126 / 147

120

しおりを挟む
「おめでとうございます。これは間違いなくおめでたですね。今は、ええと…7週目です。つまり…予定日は来年の春3月の終わり頃になりますね。」 

お医者様のお言葉に喜びの衝撃を受けたと同時に東吾様がぎゅっと私を抱きしめてくださいます。 

「東吾様…」 

「小雪、ありがとう、ありがとう…俺たちの子供だぞ…ああ…こんなにうれしいものなのかっ…」 

「東吾様ったら…私もとても嬉しいです。東吾様がそんなに喜んでくださって…この子に会うのが待ちきれないですね…」 

「ああ…」 



「あの…」 

二人でまだまっ平らなお腹に手を当てて喜びを噛み締めておりましたが、お医者様がいらしたことをすっかり忘れておりました。 

人前で東吾様と抱きしめあっていたことに羞恥して真っ赤になる私を当たり前のように腕から話して下さらない東吾様は、お医者様に客間で待っていてくれるように頼んでおられます。 

「わかりました。ではそちらの部屋で待たせて頂きます。妊娠中の注意事項や、それと今後の予期される体調の変化などお伝えしたいこともございますので。」 

「ああ、助かるよ。すぐに行くから待っていてくれ。」 


それからお医者様は部屋を出ていかれました。 

 
「小雪、愛してるよ。本当にありがとう。それと今日はとにかく横になっていてくれ。俺は話が終わったらすぐに戻ってくる。もしも具合が少しでも悪くなったらすぐにこの呼び鈴で知らせるんだぞ?ああ、そうか、数人、使用人をこの部屋で待機させておこう。」 

「東吾様、そこまでしていただかなくても…」 

「頼む小雪、小雪が心配なんだ。何より俺には小雪が大事なんだよ。だから俺のためのと思って?」 

「東吾様…大好き…」 

思わずこぼれ出た言葉に羞恥ではっと戸惑った瞬間に、余裕のない東吾様に口づけをおくられておりました。とても情熱的でそれでもとても優しい口づけでございます。 


東吾様にその後抱きしめられたままじっとしておりましたら眠気に襲われてしまいました。いつのまにか私はそのまま瞳を閉じておりました。 

ですので、眠ってしまった私を気遣いながら東吾様が静かに部屋を出ていかれて、お医者様の話を神妙に聞き終わった後に、速攻で走って私の部屋に戻って来られたことなど気が付くことが出来ませんでした。 

「眠っている奥様の寝台のすぐそばで書類仕事を片付けている東吾様が何度も奥様の様子を確認していてとても微笑ましかったんですよ。」 

その次の日、過保護な東吾様に手を引かれて庭を散歩した後に休憩していると、お茶を持ってきてくれた使用人が、とても微笑ましそうにそう教えてくれました。 

その時の東吾様が目に浮かんできてますます東吾様を愛おしく感じてしまうのでした。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

【完結】私の婚約者はもう死んだので

miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」 結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。 そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。 彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。 これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

処理中です...