見捨てられたのは私

梅雨の人

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「そうか…分かったよ、小雪さん。ああ、そうだ。美知恵と息子を待たせていたんだった。息子も成長してね、今日は乳母に任せて美知恵を屋敷で休ませてるんだよ。甘いものが好きみたいだから何個かついでに持って帰ってやろうと思ってね。」 

「美知恵さんはお元気でいらっしゃいますか?」 

「ああ、おかげさまで元気にしているよ。小雪さんがとても幸せそうにしていたと伝えても良いだろうか。」 

「ええ、私からもよろしくお伝えくださいませ。」 

「良かった、ありがとう。ああ、必ず伝えておくよ。会えてよかった。一宮殿、小雪さん、お先に失礼します。」 

 

ルナ洋菓子店の箱をお土産に抱えて店を出て行った太賀様を見送った直後に、東吾様の注文してくださったケーキと飲み物が私たちの席に運ばれてきました。 

 

「美味しそう…」 

「食おう、小雪。」 

「ええ、亮真様。ああ、どれからにいたしましょう。やっぱりこの洋ナシケーキから…いえ、最後に取っておきたい気も致しますし…どういたしましょうか…」 

「くくくっ、好きに食べたらいい、足りなければ追加で注文すればいいだけだ。」 

「でもそんなにたくさんはお腹に入らないでしょう?」 

「心配いらない。俺は大食漢だと以前教えたのを覚えているか?大食いでうちの母は乾いた笑いばかり出していたんだぜ?」 

「そこまでですか…では、大船に乗ったつもりで頂きますね、東吾様。」 

「ああ、食べよう食べよう!」 

 

ルナ洋菓子店と聞いて、以前でしたら亮真様と琴葉様のことを思い出しては悲しい思いをしていたのでしょうが、東吾様はそんな思いを一気に吹き飛ばしてくださいました。 

辛い思い出も、新たに幸せで楽しい思い出に変えて下さる東吾様は私にどのような魔法をかけて下さったのでしょう。
まるでその全てで私を包み込んで幸せを分け与えてくださっているような気分にさせてくださいます。 

 

太賀お義兄様にお会いしてもようやく大河内家の皆様のことを思い出したくらいで、願うのは皆さまがご健勝で幸せに過ごせていますようにということだけでございました。 

東吾様と一緒になってから大河内家の皆様を思い出す暇もないくらい幸せにして頂けていたのだと改めて実感したのでした。 
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