見捨てられたのは私

梅雨の人

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「折角だから小舟に乗ろう小雪。」 

お湯から出た私たちはお昼を軽く頂いて、湖畔に浮かぶ小舟に乗っております。 

部屋から直接湖畔に出てすぐそこにつながれております小舟に東吾様がのせてくださいました。 


小舟をゆっくり漕いでくださる亮真様がとても逞しくて、恥ずかしくてなかなか直視できません。 

そんな私を知ってか知らずか、亮真様は目を細めて私を見つめていらっしゃいます。 


「ほら小雪見てごらん」 

「え…?わぁ…」 


東吾様の指さす方向に目を向けますと私たちの別荘の後方に雄大な山が目に入りました。 


「今日は無理だが、今度あそこの麓まで行ってみよう。一緒に馬に乗に乗るぞ、小雪。」 

「それは楽しみです。あ…でも私、乗馬なんてしたことないのですが大丈夫でしょうか…」 

「心配しなくていい。なんたって俺が付いてるからな。」 

「では…お願いいたしますね、東吾様。」 

「…ああ、もちろんだ、小雪。…もうめちゃくちゃかわいいな…」 

「また…東吾様…」 

「…」 

 
◇◇◇◇ 

 

「すごくかっこいいですね。引き締まって毛並みが艶々で…」 

「ありがとうございます、奥様。この馬はとても気性が穏やかで足が逞しく力が強いやつでしてね。なに、乗馬が初めてと申されましたが、旦那様も後ろから奥様をお支えしてくださることですし、私も最初は馬と一緒に歩いて慣れて頂きますので、ご心配なされずとも大丈夫でしょう。とりあえず源太に触ってみますか?ああ、源太というのはこの馬の名ですよ。」 


恐る恐る馬の頬を撫でてみますと大きく潤んだ真っ黒な瞳がじっとこちらを見ております。 

とても澄んでいて綺麗な瞳をした馬でございます。 

 
「よろしくね、源太さん?」 

「…よし、小雪乗ってみよう。俺が最初に乗るからここの踏み台で待っててくれ。…よし、いいぞ小雪おいで。」 

「行きますよ、亮真様…あわわわ…高…高いですね…」 

「大丈夫だ、小雪。下を見ないでまっすぐ前を見てごらん。大丈夫、絶対に君を落とさないから。」 

恐る恐る目を開けて東吾様を振り返ります。 

緊張をほぐすように東吾様がいたずらっ子のような笑顔を零し、額に口づけを落として参りました。 

「東吾様…」 

「緊張をほぐすまじないだ、小雪。」 

「もう、東吾様ったら…」 

「よし、では進んでみようか」 

「源太さん、よろしくね?」 

「…小雪」 

何故だか急にギュッと後ろから抱きしめられてしまいました。 
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