見捨てられたのは私

梅雨の人

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「小雪、準備は出来たか?」 

「ええ、東吾様。いつでも出発できますよ。」 

「そうか、そうか!よし、じゃあ、行くか!じゃあ、皆行ってくる。留守を頼むぞ。」 

「「「「行ってらっしゃいませ、旦那様、奥様。」」」」 

ずらりと並んだ使用人に見送られて亮真様の運転する車で出発いたします。 

運転する東吾様はとても慣れていらして、危なげもなくどんどん景色が変わっていきます。 

私たちの住む住宅地を抜けて地方ののどかな景色を眺めていますと視界が開けて海が見えて参りました。 

 

「東吾様!」 

「ああ、きれいだなあ小雪!」 

「ええ、海を見たのは子供の時以来でございます。すごいっ…!」 

「…かわいいなあ、小雪…」 

「遠回りをして行こうっておっしゃっておりましたのは、この景色を私に見せて下さろうとお考えだったからですか?」 

「ああ、そうだ。小雪がいるからこそ、小雪の喜ぶことがしたくて色々考えてしまうんだ。ああ、そうだ。こんなに喜んでくれるならこの景色を眺めながらどこかで昼飯でも食おう。…確かもう少し先に刺身がうまい店があるらしいからそこに行こう。」 

「ええ、ええ。東吾様、とても楽しみですっ!」 

はしゃぎすぎてしまったと不意に我に返ってしまいました。 

何をしてもかわいいなあと喜んでくださる東吾様が本当にうれしそうにしてくださるので、私も何をしても幸せでたまらない気持ちになってしまうのです。 

 

◇◇◇◇ 

 

「美味いか、小雪?」 

「ええ、ええ、本当に美味しいです。特にこのお刺身、とても新鮮で脂がのっていて本当に美味しいですね。」 

「ああ、本当に美味いな。この店に入って正解だった。」 

「東吾様は本当にいろんなお店をご存じですね。とても心強いです。」 

「まあ、商談なんかで美味い店の話が頻繁に飛び交うからな。気になったところは食べに行くようにしているんだ。ほら、おかげであの時も小雪に会えた。」 

「あの時?」 

「ああ、あの料亭で小雪が一人で歩いていた時。突風が吹いた時の。」 

「おかげで東吾様に助けて頂けました。ふふふっ。とてもうれしかったのすよ。」 

「そうか?そうか…」 

「ええ、もちろんです。ふふふっ」 

思わずはにかむ東吾様をとても可愛く感じてしまいました。
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