見捨てられたのは私

梅雨の人

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「やあ、小雪さん」 

「なんだ東吾、またお前か。毎日毎日。お前は暇なのか?」 

「うるさいぞ孝一朗。はい、これは小雪さんに。毎度洋菓子で飽きられたら困るから今日はこれを君に。」 

「まあ…花束だなんて…それに…」 

「…ああ…もしかして嫌だった?」 

「いえ…とても、とてもうれしいです。ありがとうございます…」 

「よ…よかった。嫌われたかと思ってしまった…その、この花は小雪さんを思い浮かべて俺が勝手に似合いそうだなと思って選ばせてもらったんだが、その、君が気に入ってくれるといいんだが。」 

「気に入るも何も…とても素敵です。本当に…いつも本当にありがとうございます一宮様。」 

 

小さな花がカスミソウの間に至る所にたくさんちりばめられていて、かわいらしくその顔を出しているその花束をそっと胸に抱きました。
とても優しい匂いに幸せを感じて笑顔が零れてしまいます。 

ふと目の前の一宮様を見上げると目元を真っ赤にさせて私を見つめていらっしゃいました。 


「…孝一朗…」 

「…本当にしつこい奴だな…仕方ない。小雪私は少し席を外すががもしも東吾が何かしてきたら思い切り殴りつけるように。この兄が許そう。」 

「…殴りつける…?ですか?」 

「ああ、何なら蹴り上げてもいい。とにかくすぐに戻ってくる。わかったな東吾…?」 

「ああ」 
 

お兄様がそうして部屋を出ていかれておもむろに一宮様へ視線を戻すと、一宮様はじっと私を見つめられておりました。 

「小雪さん、庭園を散歩しないか?」 

「ですがお兄様がすぐに戻って来られるのでは…」 

「大丈夫だ。孝一朗のことだ。使用人に聞いてから駆けてくるだろうさ。」 

 
笑顔でそうおっしゃって手を私に差し伸べてくださいます。 

大きなその手を取らないという選択肢が思いつかなくて私が手を差し出しますと、嬉しそうに相好を崩した一宮様と視線が交わりました。 

今日も私の歩調に合わせてゆっくりと歩いて下さっております。

大きくて逞しくて頼りになる一宮様が私の隣にいてくださっているだけでこの上なく安心できますのに、高まる鼓動はなかなか治まってはくれないのです。
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