見捨てられたのは私

梅雨の人

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「なっ!!!小雪っ!!やめろ義姉さん早くそこをのいてくれ!!…何をっ!!」 

「駄目よ亮真さん!!ほら、私の方が小雪さんよりっ…」 

「やめろっ!!!小雪待てっ待ってくれっ!!!」 


「……(気持ち悪い…)」 

急いで部屋に戻った私は内側から鍵をかけて扉がなかなか開けられないように必死に家具を動かして扉の前に並べました。 

(気持ち悪い…気持ち悪い…気持ち悪い…亮真様からも琴葉義姉様からもこの屋敷からも離れなければ…) 

どうしても今まで拭い去ることのできなかった亮真様への執着という薄皮をやっと自分ではがすことが出来た気が致します。 

亮真様をお慕いしていた気持ちを、諦めるのが怖かった私を受け止めることがやっと出来たのでしょうか。 

亮真様の妻となってこれから一生を共にする時間の中でいつか私だけを見てくれるようになるだろうと、何度へし折れても希望を持ち続けていた私も。 

何度も何度も何度も傷ついてもそれでもあきらめきれなかった私も。 

琴葉お義姉様を常に優先する亮真様を受け入れることはできないのにそれでもお慕いするのをやめられなかった私も。 

これが最後と思いながらそれでももしかしたらと期待してはその期待を裏切られ続けることることを繰り返した私も。 


―――幾度も幾度もつらい経験を経てすべての私をようやく受け入れ、許すことが出来た気が致します。
 

速足で歩いて窓を勢いよく開け、思い出したかのように必死に空気を吸い込みます。 

 

「…小雪さん…小雪さんっ」 

「その声は…一宮様…?」 

「しっ…小雪さん、よく聞いてくれ。もし君がそこから逃げたいと思っているなら俺は今すぐに君を連れ出す。…どうしたい?」 
 

「連れ出してくださいませ…お願い一宮様。私をここから連れ出してくださいっ…」 

「…二度と戻れなくなってもいいんだな?」 

「はいっ」 

「わかった」 

声が聞こえるだけで姿は見えませんが、一宮様がすぐそこまでいらしていたのを感じることが出来た安心感からか一気に体の力が抜けてしまいました。 

床に座り込んでしまった私が窓の外へ視線を移すと雨上がりの空の雲の切れ間から光が地上に降り注いでおりました。 


それはまるで…そう…希望の光のようだと感じました。 
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