見捨てられたのは私

梅雨の人

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琴葉お義姉様が部屋から出ていかれてから、亮真様にずっと抱きしめられておりました。

どの位の間そうしていたでしょう。 もう時間の感覚がおかしくなってきているような気が致します。



「小雪、夕餉に行くぞ。」 

「行く…のですね?」 

「ああ…部屋を出たかったのだろう?」 

「よろしいのですか?」 

「ああ。」

亮真様が手慣れた様子で私の身だしなみを整えてくださるのを呆然と見つめておりますと不意にふわりと抱きかかえられておりました。 

抱きかかえられているとはいえ部屋から出ることが出来てほっと致します。 

亮真様の腕の中から見える屋敷の中は以前と変わりありませんが、そばに控えている使用人はやはり戸惑っているように思えます。


昼食を兼ねた早めの夕餉ということでたくさんの料理が並べられております。 

「あの、亮真様。手を…」 

「ああ、君の手は本当に小さくて柔らかいな。」 

亮真様は私を膝の上に抱えたまま器用にも片手は私の手をそしてもう片方で箸を操っておられます。 

「昼食を食べていなかったから腹が減ったな。小雪、美味いか?」 

「はい…」 

「そうか…」 

「あの…亮真様も召し上がりませんか?私ばかり頂いて申し訳ないですわ…」 

「…。」 

亮真様は突然はぁッと大きなため息を吐いた後、ぎゅっと私を抱きしめてこられました。 

その後黙ったままの亮真様は何も言わずに料理を私の口に運んでくださりました。 

側に控える使用人たちはこちらを見ないように壁際に控えております。 

「恥ずかしがることはないだろう?俺たちは夫婦なのだから…ふっ…」

結局膝の上に乗せられたまま食事を終えるころには私の顔は羞恥で顔が真っ赤になってしまいました。 

使用人の皆もこちらをなるべく見ないように違う方向を向いております。 

 「ご馳走様でした」
「さあ、行こうか小雪。」
食事を終えてからも当たり前とばかりに亮真様に抱きかかえられて廊下に出てきました。 

「亮真様、重くないですか?」 

「君はもう少し食べでもいいくらいだ。」 

「そうですか?」 

「ああ、そうだ…。もっと美味いものをたくさん食べさせてやらなければいけないな…。」 
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