見捨てられたのは私

梅雨の人

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「さあ、一番最初最初はどれにする?ああ、すまない。腹が減ってなければ無理に今食べなくてもいいんだが…」 

「お前なあ、今更それを言うか…?」 

「こんなに美味しそうなものを目の前にしてお腹が空かないだなんてあり得ませんわ。今すぐ頂きます。

そうですね…やっぱり最初は一宮様お勧めの洋ナシケーキを頂きます。あの…一宮様もお兄様もご一緒にいかがですか?全部食べてみたいのですが絶対にお腹に収まりきらないと思いますので…」 

「ああ、いいよ小雪。好きなだけ食べて残りは私たちが頂くよ。いいよな一宮?」 

「ああ、もちろんだ。はい、お茶をどうぞ、小雪さん。」 

「ありがとうございます、一宮様。では、頂きます。…すごい…本当に中から洋ナシが出てきました…。いい香り…美味しい…」 

「そっか、美味いか!よかった。さあ、小雪さんもっと切り分けてやるから皿を貸して、あ、それか違うのがいいかな?」 

「おいおいおい、東吾。焦らせるなよ。」 

「ああ、すまん、ついうっかり、な。美味しそうに食べる小雪さんも…ぃぃ…」 

「阿保かお前は…。」 

 

「あの…お兄様も一宮様も一緒に頂きませんか?」 

「ああ、頂こうか。お、美味いな確かに。」 

 

「孝一朗様、お楽しみのところ申し訳ございませんがお客様がいらっしゃっております。どのようにいたしましょうか」 

「客?今日は客が来る予定なんてなかったが…誰だ?ああ、小雪、気にしないで食べてくれ。」 

「…大河内様でございます。」 

「なるほど。わかった。ここに通してくれ。」 

「おい、考一郎。いいのかここに通すって。小雪さんは。」 

「小雪、いいんだよな?」 

「ええ、お通しになってください。」 

「でも本当にこれが最後です。これでだめだったら…戻ってきてしまってもよろしいでしょうか?」 

「ああ、何遠慮してるんだ小雪。いつでも小雪が戻ってくるのを待ってるさ。私が付いてる。何があっても小雪は大丈夫だ。」 

「小雪さんはもう一度向こうに戻るのか。…分かった。小雪さん、俺もいつでも君の力になる。」 

「ありがとうございます、お兄様、一宮様。」 

頼もしいお二方がそうおっしゃってくださるのなら、なるようになってしまっても大丈夫だという気がして参りました。 

「ところで一宮様とお兄様はどこでお知り合いになったのですか?」 

「ああ、うちの父と小雪さんのお父上が知り合いで俺が父と外国へと出発するずっと前から会う機会があったんだ。」 

「小雪、覚えているか?来るたびに興味深い本を持ってきてくれた父さんの友人がいただろう?小雪はまだその時人見知りがあったからあまりしゃべることもなかったけど、その時一緒に東吾も来ていたんだ。」 

「ああ!あの時の?!」 

「東吾は随分と様変わりしたから気が付かなくても仕方ないよな。」 

「ああ、あの時の俺は背も低くてひょろっッとしてたしな。」 

「ああ、今ではその面影が全く残っていないが。」 

 

「失礼いたします。大河内様をお連れ致しました。」 
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