見捨てられたのは私

梅雨の人

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「なあ、小雪。辛いならこのまま私とここで一緒に暮らそう。後はどうとでもなる。無理して向こうの屋敷に戻る必要はないんだぞ?」 

「先程、一宮様が外套を私の肩にかけてくださったときとても落ち着いて暖かくて…いつも亮真様が琴葉お義姉様に優しく接して差し上げてるのを苦しい気持ちで見ている間、お義姉様はこのような気持ちだったのかとようやく理解致しました。

とても暖かくて包み込まれたみたいで…優しさが心に染みてしまいました…。お二人はいつも幸せそうに微笑みあっていて…でも私はその間苦しくて苦しくて苦しくて…。

亮真様といつかは幸せな夫婦になりたい…なんて私にはかなわない夢だったのでしょう。亮真様に優しくされるたびに私は単純ですからすぐに幸せな気持ちになってしまって。でもどうしても亮真様は琴葉お義姉様のもとへ行かれてしまう。

亮真様との間に惹かれた一線が消えることはなくて…いつしか私がいなければすべてうまくいくのではと気が付いてしまいまして…ずっと悩んでおりました。」 

 

「小雪。もう、もう二度と向こうへ戻らなくていい。」 

「いいえ、もう一度だけ向こうに戻ります。もうその必要もないとは思いますが私の初恋をきちんと終わらせてまいります。どちらにしろこのままというわけにも参りません。お兄様、見守っていてくださいますか?」 

「わかった、小雪。ただしいつでも必ず私を頼ること。」 

「我儘な妹でごめんなさいお兄様…。」 

「小雪が我儘だなんて思ったこともないし、謝る必要もない。大丈夫だ、小雪。」 

「はいっ…」 

 

「孝一朗様、一宮様がお越しでございます。」 

「ああ、通してくれ。」 

 

「やあ、小雪さんお土産を持ってきたぞ。全部君のだ。」 

「ルナ洋菓子店とかいてと書いてありますね。これもしかして!」 

「ああ、小雪さんの舌に合うといいんだが。」 

「嬉しいです!ありがとうございます!」 

「開けてみて?」 

 

「このケーキはもしかして洋ナシが丸まる一つ入ったケーキですか?」 

「大正解。」 

「ありがとうございます、一宮様!すごくうれしいです。お話を伺ってから是非食べてみたかったので。」 

「なんだ夫君は結局君を連れて行ってくれなかったのか?っと、その隣の奴はサクサクの生地の上はカスタードクリームとイチゴだな。その隣はチーズをたっぷりと使った菓子だ。」 

「気が利くじゃないか、東吾。」 

「当たり前だこのくらい。さあさあ、小雪さん何が飲みたい?俺が茶を入れよう。おっと、夕餉の前だから無理しないでくれ…なんて今更か?」 

「ふふふっ、是非頂きたいですわ。それにお茶を入れて頂くなんて、一宮様に申し訳ないですわ。」 

「いいからいいから。小雪さんは座っていてくれ。」 

手慣れていらっしゃるのでしょうか。一宮様は手際よくお茶を淹れてくださいました。
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