見捨てられたのは私

梅雨の人

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部屋に戻っても窓から外を見れば亮真様と琴葉お義姉様の寄り添われる光景が目に入ります。

カーテンを閉めようにも視線がお二人をとらえてしまったまま体が動いてくれません。琴葉お義姉様が寒がっておられるのか、心配なさっている様子の亮真様は外套をお義姉様の方にかけて差し上げております。

そして…外套 を引っ張ったお義姉様は背伸びをして亮真様の唇を塞がれました。

固まったように動かない亮真様の首に腕を回して口づけを送られる琴葉様を抵抗することもなくただ受け止めておられる亮真様でしたが、ハッとして琴葉お義姉様から距離を置かれました。

急にこちらを振り返ってみる亮真様と視線が交わったと同時に体がふっと解放されあまりの息ぐるしさを覚えた体は玄関へと急いで向かっております。 
 

「奥様どちらかへお出かけでございますか?」 

「急ぎの用事で藤堂の家に行ってきます。…少しお兄様に顔を見せてくるだけよ。すぐに戻るわ。」 

「旦那様には…」 

「亮真様にはあとから伝えておいてくれるかしら?では行ってくるわね。」 

「奥様」 

「早く車を出して頂戴。急いで、お願いっ。」 

「…かしこまりました。」 

 

何か言いたげな運転手はそれでも私を藤堂家に送り届けた後、後で迎えに来ますと言って大河内家へ戻っていきました。

 

「小雪」 

「お兄様」 

「大丈夫か?」 

「…ええ。」 

「何も言わなくていい。大体は把握しているからな。小雪もう戻らなくていいんだぞ?」 

「そういうわけには…」 

「今客が来ていて…ああ、奴は喜びそうだな…なるべくしてなったんだろうな、これは…いや、奴の策略か?」 

幸太郎お兄さまが何やら一人でぶつぶつとつぶやいております。 

とにかく中に入ろうと促されて歩いておりますと目の前を見知った方が走り寄って参りました。 

「小雪さん!」 

「…見つかってしまったか…」 


「おい、東吾」 

「なんだよ孝一郎、やあ、小雪さん。おかえり。」 

「え?どうして一宮様が?」 

「ああ、こいつはただの仕事仲間だ」 

「ただの仕事仲間だって?!いやいや、孝一朗と俺は親友だよ、小雪さん」 

「誰が親友だ。」 

心なしか誰とでも一線を引かれているように見える孝一朗お兄様が、このように心を許している方がいただなんてとても驚いてしまいました。 
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