見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
57 / 147

53

しおりを挟む
「小雪はまだ寝ているから起こさないように頼む。」 

「はい、かしこまりました。」 


扉の向こう側で亮真様の声が聞こえてまいります。 

起き上がって亮真様をお見送りしたいのに体が重くてうつらうつらと再び眠気に襲われております。 

「喉が渇いたわね…」 

「奥様、お目覚めでございますか?おはようございます。ただいまお水をお持ちいたしますね。」 

「亮真様は…?」 

「旦那様はお仕事にお出かけになられました。奥様を寝かせておくようにとのことでしたのでそのようにさせて頂きましたよ。」 

「そう、そうなのね。ありがとう。」 

実家の藤堂家から、この屋敷に戻って来て以来、亮真様は夜になると私の部屋にやってきてそのまま一緒に朝まで過ごされるようになりました。 

毎晩のように体を求められておりますので、うっかりすると覚めた時にはお昼になってしまいます。 

お仕事がとても忙しそうですのに、まめに私との時間もとってくださって感謝しております。 


「小雪、今週末外で夕食にしないか?兄さんと私が出資した宿の料亭が大変話題になっているからどうかと思ったんだが…」 

「よろしいのですか?」 

「ああ、もちろん。私が君を誘っているんだから良いも何もないと思うぞ。」 

「…とても…とても楽しみにしております。お誘いくださってありがとうございます亮真様。」 

「…ああ…」 

亮真様と夫婦になってこのように誘って頂いたのは初めてのことですので週末がとても、とても楽しみでございます。 

◇◇◇◇

「亮真様、お待たせいたしました。…亮真様?」 

「……ああ、それでは行こうか、小雪。」 

「ええ、よろしくお願いいたします。」 

今日は亮真様の運転する車で、お目当ての料亭まで向かっております。 

考えましたら亮真様の運転する車の助手席に座るのは初めてのことで、亮真様の運転するお姿がとても凛々しくて胸が高鳴ります。 

 
「小雪、どうした?大丈夫か?」 

「え?ええ。亮真様の運転はとてもお上手ですね。」 

「そうか?なあ、小雪。」 

「はい、亮真様?」 

「その服…とても似合っている…」 

「そうですか?ありがとうございます。今度お兄様にお礼を伝えなければなりませんね。こうして亮真様に褒めていただいたのですから。」 

「お義兄さんか…今度…」 

「今度?」 

「私が小雪に服をたくさん贈る…」 

「はい…」 

現地に到着するまでの私と亮真様の会話はこれで終わってしまいましたがそれだけで幸せでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

業腹

ごろごろみかん。
恋愛
夫に蔑ろにされていた妻、テレスティアはある日夜会で突然の爆発事故に巻き込まれる。唯一頼れるはずの夫はそんな時でさえテレスティアを置いて、自分の大切な主君の元に向かってしまった。 置いていかれたテレスティアはそのまま階段から落ちてしまい、頭をうってしまう。テレスティアはそのまま意識を失いーーー 気がつくと自室のベッドの上だった。 先程のことは夢ではない。実際あったことだと感じたテレスティアはそうそうに夫への見切りをつけた

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

完結 嫌われ夫人は愛想を尽かす

音爽(ネソウ)
恋愛
請われての結婚だった、でもそれは上辺だけ。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

処理中です...