見捨てられたのは私

梅雨の人

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11月に入り寒くなってまいりました。

「寒くなってきましたね、奥様。」 

「そうね、タカさん。折角だから暖かいものでも頂いて帰りましょうか。」 

「そうですね、奥様。そういえばそこの角を曲がったところに人気の店がありますよ。」 

「そうなの?ではそこに入りましょうか。」 

「ああ、ありました。奥様ほら、あそこ――え?旦那様と琴葉様?」 


入ろうとしていたお店からはなぜか亮真と琴葉お義姉様が出てきました。 

寒そうにする琴葉お義姉様にご自分の上着を羽織らせた亮真様がいらっしゃいます。嬉しそうに琴葉お義姉様は亮真様の腕に絡みついておられます。まるでそれは仲の良い恋人同士のようです。 

(あのようなことを亮真様は琴葉お義姉様にして差し上げるのね―――。) 

じっと亮真様たちを見つめすぎていたせいでしょうか。亮真様の視線がこちらを向いて私に気が付かれたようです。ピタッと亮真様の足が止まり琴葉お義姉様がどうしたのという風に首を傾げられております。 

こちらに向かってこようとしているらしい亮真様を琴葉様が腕を引いて話しておられます。 


「帰りましょう奥様。」 

「そうね、タカさん…」 

屋敷に戻ってきてタカさんはそっと部屋から出ていき私を一人にしてくれております。 

私が屋敷に戻ってすぐに亮真様も帰宅されたようです。 


扉の外で何やら亮真様とタカさんの声が聞こえますが、今は一歩も動きたくありません。

溢れ出そうになる感情を押し留めるのに一杯一杯で、亮真様が扉の向こうにいらっしゃることも何の用事があって私に会いに来たのかも私にはどうでもよいのです。今は何も知りたくないのです。
何度も何度も何度も。息が苦しくなるほど胸を締め付けられる思いをするなんで...。
逃げたい
諦めたい
忘れてしまいたい

溢れる涙を拭う気力もなく茫然と朝を迎えておりました。

 

「奥様おはようございます…あの…顔色が…お医者様をお呼び致しましょうか?」 

「いえ…大丈夫よ。少し眠れなかっただけだから心配しないで?」 

「そうですか?いや…でも…お願いです奥様。何もなければそれが一番ですけれど念のために診察を受けてくださいませんか?」 

「そこまで言うのなら…そうね。お願いするわ…」 
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