見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
47 / 147

43

しおりを挟む
次の日、亮真様と一緒に妙子さまのお墓参りに向かうため、身支度を終えて玄関を出ようとした私たちの視界に琴葉お義姉様が飛び込んでまいりました。 

「亮真さん、小雪さん。あら、どこかにお出かけなの?」 

「ああ義姉さん、小雪の親友の墓参りに向かうところだ。」 

「まあ、小雪さんの親友の方がお亡くなりになってたの?それは今まで知らなくて申し訳なかったわ。私もご一緒してもいいかしら、小雪さん?」 

「それは…」 

「ああ、もちろんだ。いいよな小雪?」 

「ええ…」 

外はあいにくの曇り空でございます。  

今日は運転手に運転を任せた亮真様の両隣に私と琴葉様が座ります。 

車内での亮真様と琴葉お義姉様の会話を聞きながらようやく墓地に到着いたしました。 

お墓は相変わらずきれいに磨かれてたくさんのかわいらしいお花が供えられております。きっと妙子さまの旦那様が供えられたのでしょう。 

その後、三人で手を合わせてその場を後にいたします。 

「ほらそこにも、義姉さん足元気をつけて。ああ、ここもだ。しっかり私の腕につかまって。」 

「亮真さん、そんな子ども扱いしないでほしいわ。いつまでたっても優しい亮真さんのままなのね。あら、きれいな椿がまだ咲いているわ。」 

「ああ、本当だ。珍しいな。ああ、義姉さんはまた。そうやって花を手折ってまでして匂いを嗅ぐ癖は相変わらずなんだな。ああ、ほら、袖が枝に引っ掛かりそうだ、気を付けて。」 

「あっ、本当に。ありがとう、亮真さん。助かったわ。あら、あまり匂わないわ。残念。」 

「ちょっと待って、俺も匂ってみようか。ああ、本当だあまり匂わないな。ああ、またそうやって匂わないからってすぐに捨てようとする。」 

「駄目かしらね。」 

「駄目だ。」 

「そういうものかしらね?」 

「そういうものなんだよ。ほら、行こう。小雨が降ってきた。傘を持ってきてよかった。ほら義姉さんこっちにもっと寄って。濡れてない?行こう。足元に気を付けるんだぞ?」 

「そんなに傘を私のほうによこしたら亮真さんが濡れてしまうわ。?」 

「俺はいいから、さあ、早く。」 


急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 

ただそれだけのことですのに、 

当然のごとく琴葉お義姉様の手を引いて歩いて行く亮真様の後ろを、一人置いて行かれないように足を一歩二歩と進めて立ち止まってしまいました。 

ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことですのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 

 

びしょ濡れの私の目の前を亮真様が慌てて走ってきております。 

目の前が真っ白になってぐらりと視界の揺れたのを最後に意識を手放してしまいました。 

どうやって部屋に戻ってきたのかさえ覚えていない私は、気が付けば高熱でうなされておりました。 

目が覚めて悪夢を見ただけだと思いたいのに、窓際に飾られた椿の花があれは現実だったのだと無情にも私に教えてくれます。  

耳鳴りもひどく寒気で体の震えが止まりません。 

どなたかが私に呼び掛けてきますがもう私にはそれが誰なのか見当もつきません。 
何かが私の手をつかんでいるようですがそれが何なのかもうどうでもよくなってきました。 

うなされる中で夢に出てきたのは幼いころの私にそっくりな少女でした。どうしたの?と聞くともう疲れたちゃったの…と言ってその少女は雨の中一人で立ち尽くしておりました。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

ごろごろみかん。
恋愛
旦那様は、私の言葉を全て【女の嫉妬】と片付けてしまう。 正当な指摘も、注意も、全て無視されてしまうのだ。 忍耐の限界を試されていた伯爵夫人ルナマリアは、夫であるジェラルドに提案する。 ──悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

〈完結〉【コミカライズ・取り下げ予定】思い上がりも程々に。地味令嬢アメリアの幸せな婚約

ごろごろみかん。
恋愛
「もう少し、背は高い方がいいね」 「もう少し、顔は華やかな方が好みだ」 「もう少し、肉感的な方が好きだな」 あなたがそう言うから、あなたの期待に応えれるように頑張りました。 でも、だめだったのです。 だって、あなたはお姉様が好きだから。 私は、お姉様にはなれません。 想い合うふたりの会話を聞いてしまった私は、父である公爵に婚約の解消をお願いしにいきました。 それが、どんな結末を呼ぶかも知らずに──。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

【完結】私の婚約者はもう死んだので

miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」 結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。 そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。 彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。 これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。

処理中です...