見捨てられたのは私

梅雨の人

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次の日、亮真様と一緒に妙子さまのお墓参りに向かうため、身支度を終えて玄関を出ようとした私たちの視界に琴葉お義姉様が飛び込んでまいりました。 

「亮真さん、小雪さん。あら、どこかにお出かけなの?」 

「ああ義姉さん、小雪の親友の墓参りに向かうところだ。」 

「まあ、小雪さんの親友の方がお亡くなりになってたの?それは今まで知らなくて申し訳なかったわ。私もご一緒してもいいかしら、小雪さん?」 

「それは…」 

「ああ、もちろんだ。いいよな小雪?」 

「ええ…」 

外はあいにくの曇り空でございます。  

今日は運転手に運転を任せた亮真様の両隣に私と琴葉様が座ります。 

車内での亮真様と琴葉お義姉様の会話を聞きながらようやく墓地に到着いたしました。 

お墓は相変わらずきれいに磨かれてたくさんのかわいらしいお花が供えられております。きっと妙子さまの旦那様が供えられたのでしょう。 

その後、三人で手を合わせてその場を後にいたします。 

「ほらそこにも、義姉さん足元気をつけて。ああ、ここもだ。しっかり私の腕につかまって。」 

「亮真さん、そんな子ども扱いしないでほしいわ。いつまでたっても優しい亮真さんのままなのね。あら、きれいな椿がまだ咲いているわ。」 

「ああ、本当だ。珍しいな。ああ、義姉さんはまた。そうやって花を手折ってまでして匂いを嗅ぐ癖は相変わらずなんだな。ああ、ほら、袖が枝に引っ掛かりそうだ、気を付けて。」 

「あっ、本当に。ありがとう、亮真さん。助かったわ。あら、あまり匂わないわ。残念。」 

「ちょっと待って、俺も匂ってみようか。ああ、本当だあまり匂わないな。ああ、またそうやって匂わないからってすぐに捨てようとする。」 

「駄目かしらね。」 

「駄目だ。」 

「そういうものかしらね?」 

「そういうものなんだよ。ほら、行こう。小雨が降ってきた。傘を持ってきてよかった。ほら義姉さんこっちにもっと寄って。濡れてない?行こう。足元に気を付けるんだぞ?」 

「そんなに傘を私のほうによこしたら亮真さんが濡れてしまうわ。?」 

「俺はいいから、さあ、早く。」 


急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 

ただそれだけのことですのに、 

当然のごとく琴葉お義姉様の手を引いて歩いて行く亮真様の後ろを、一人置いて行かれないように足を一歩二歩と進めて立ち止まってしまいました。 

ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことですのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 

 

びしょ濡れの私の目の前を亮真様が慌てて走ってきております。 

目の前が真っ白になってぐらりと視界の揺れたのを最後に意識を手放してしまいました。 

どうやって部屋に戻ってきたのかさえ覚えていない私は、気が付けば高熱でうなされておりました。 

目が覚めて悪夢を見ただけだと思いたいのに、窓際に飾られた椿の花があれは現実だったのだと無情にも私に教えてくれます。  

耳鳴りもひどく寒気で体の震えが止まりません。 

どなたかが私に呼び掛けてきますがもう私にはそれが誰なのか見当もつきません。 
何かが私の手をつかんでいるようですがそれが何なのかもうどうでもよくなってきました。 

うなされる中で夢に出てきたのは幼いころの私にそっくりな少女でした。どうしたの?と聞くともう疲れたちゃったの…と言ってその少女は雨の中一人で立ち尽くしておりました。 
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