見捨てられたのは私

梅雨の人

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「あっこれも美味しいですね!お野菜の味と鶏肉の味がよく染み渡っていてすごく食べやすいです。先ほどの揚げ物もとてもおいしかったですし。」 

「ああ、本当に美味いな。よかった。小雪さんの顔色もよくなってきた。」 

「顔色…ですか?そんなに悪かったですか?」 

「ああ。心配した。」 

「心配ですか?」 

「ああ、心配したんだ。」 

「それは…ありがとうございます。」 

 
お会いするのは二度目だというのに、一宮様は私の顔色に気が付きこうして私が食べやすい雰囲気を作ってくださりました。しっかりしておかないと弱ってしまっている私は簡単に流されてしまいそうになります。 

食事を終えて、以前助けてくださったお礼にお会計を申し出ましたのに、いつの間にか済ませてしまっていらした一宮様はご機嫌な様子で、私を運転手の待つ車まで見送ってくださいました。 

屋敷に戻ったのは夕方少し前でした。

琴葉お義姉様はまだいらっしゃるのかしらと先程まで忘れていた不安が胸をよぎります。 

車から降りて重たい足をどうにか玄関に向けておりますと亮真様が扉から現れ一直線に歩いてまいりました。 

杖を使って一歩私が足を踏み出すころには私の視界がふさがれておりました。 

「…。」 

「…あの、亮真様?きゃっ!」 

ふわりとあっという間に亮真様に抱きかかえられてそのまま部屋まであっという間に到着いたしました。 

「…」 

無言の亮真様はしばらく眉間にしわを寄せて黙っておられましたがそのまますぐに部屋を出ていかれました。 

 

「琴葉お義姉様はもう帰られたのかしら?」 

「いえ、奥様。琴葉様は一階の客室でお茶を召し上がっていらっしゃいます。」 

「そう…。」 

「あの、奥様…?」 

「少し疲れたみたい。すこし休みたいから一人にしてもらえるかしら?」 

「ええ、それはもちろん。では何か御用があれば遠慮せずにお知らせくださいませ。」 

昨日から色々予期せぬことばかりで瞼が重くなってまいりました。もう窓際に近づいて庭を眺めたいなんて思うことも出来ません。 
 

「―――――様?奥様…」 

 

「奥様、お風邪を召されますよ。いくらまだ温かいとはいえ夜は少し肌寒くなってまいりましたからね。お食事の準備が整いましたがいかがされますか?」 

「そう、ありがとう。ではこのまま参りましょう。」 

 

自分の足でゆっくりと歩いて食事の間へと向かいます。 

そういえばこれまでは亮真様に抱えられるか自室で頂いておりましたので、歩いて行くのは初めてでございます。 

「小雪さま、階段はいかがいたしますか?やはり旦那様を呼んで参りましょうか?」 

「いえ、大丈夫よ。ゆっくりと行くから…」 

ゆっくりとゆっくりと階段を下りる私の前にも横にも後ろにも使用人たちがぴったりと張り付いて支えてくれております。 

「みんな本当にありがとう…。」 

「いえ、奥様、とんでもございません。おひとりでよく頑張られましたね!」 

本当に気の良い明るい使用人たちばかりが揃っておりまして、このような私を気にかけてくれることをとてもうれしく思います。 
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