見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
43 / 147

39

しおりを挟む
「そうか。君にとって本当に大切な方だったんだな。亡くなられて君もさぞ寂しいことだろう。わかるよ。俺も去年年の離れた妹を亡くしてね。こうしてちょくちょく訪ねてきては話しかけて心を落ち着けているんだ。」 

「そうでしたか…それは…。」 

「それはそうと腹が減ったなあ。もしよければ一緒に飯でもどうだい、小雪さん?」 

「--ええ、よろしくお願いいたします。以前お助けいただいたお礼もさせてくださいませ。」 

「礼なんていいんだよ。とにかく決まりだな。ええと、君は車で来ているんだよな。」 

「ええ、また後程迎えに来るように伝えます。」 

「そうか、では行こうか。小雪さん、足が…」 

「ええ。これでもだいぶ良くなったのですよ。ゆっくりですが歩けます。」

「じゃあゆっくり行こう。」 

人一人分を開けて一宮様の後ろを歩きます。 

「なぜ後ろを歩くんだ。話しづらいだろう?隣にきてくれ。」 

「え?ええ。失礼いたしました。」 

「そうそう。はははっ、隣にきてくれたのに、そんなに離れて歩くなんて。ふっ」 

一宮様の隣を大きな人一人分あけて歩きます。 

足の長い一宮様がゆっくりと私の歩調に合わせて歩いてくだっております。
誰かにこうして歩調を合わせて歩いてもらうことが、こんなに安心感を与えてくれることを初めて知ることができました。 

◇◇◇◇

「ここはよく墓参りの帰りに世話になっているんだ。味は確かだから安心してくれ。」 

「墓地のすぐ近くなのですね。私もこれから妙子さまのお墓参りの際には立ち寄らせていただこうかしら。」 

「ああ、それがいい。さあ、何にしようか。」 

「そうですね…私はこのスープを頂きます。」 

「は?スープ?昼にこのスープだけとかいわないよな?」 

「駄目…ですか? 

「いや、すまない。言い方が悪かった。余計なお世話を承知で言わせてもらうが出来たら君はもう少し食べた方がいい。ああ、そうだ。いろいろ頼んでみよう。小雪さんが好きなのを食べたらいい。」 

「そんな、残してしまいます。」 

「ああ、それは問題ない。俺はこう見えて大食漢なんだ。」 

「大食漢…ですか?」 

「ああ、大食漢、だ。」 

「はっ…ふふふっ!では大船に乗ったつもりで頂きます。」 

「ああっ、任せてくれ!」 

「お待たせいたしました。」 

次から次に料理が並べられていきます。二人掛けのテーブルに料理が入りきらないため、予備のテーブルが側付けされてその上にさらにお料理が載せられていきます。 

周りのお客様もちらちらと私たち二人と料理の量を見比べては驚かれております。 

「くっくっくっ。みんな俺たち二人がこの量を食べるのかって口があんぐりなってるな。」 

「もっもう、一宮様。笑い事ではございませんよっ…ふふっ!」 

「まあ、たまにはこういうのもいいな。さて頂きますか?」 

「ええ、頂きます。」 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

〈完結〉【コミカライズ・取り下げ予定】思い上がりも程々に。地味令嬢アメリアの幸せな婚約

ごろごろみかん。
恋愛
「もう少し、背は高い方がいいね」 「もう少し、顔は華やかな方が好みだ」 「もう少し、肉感的な方が好きだな」 あなたがそう言うから、あなたの期待に応えれるように頑張りました。 でも、だめだったのです。 だって、あなたはお姉様が好きだから。 私は、お姉様にはなれません。 想い合うふたりの会話を聞いてしまった私は、父である公爵に婚約の解消をお願いしにいきました。 それが、どんな結末を呼ぶかも知らずに──。

気づいたときには遅かったんだ。

水瀬流那
恋愛
 「大好き」が永遠だと、なぜ信じていたのだろう。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

ごろごろみかん。
恋愛
旦那様は、私の言葉を全て【女の嫉妬】と片付けてしまう。 正当な指摘も、注意も、全て無視されてしまうのだ。 忍耐の限界を試されていた伯爵夫人ルナマリアは、夫であるジェラルドに提案する。 ──悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...