見捨てられたのは私

梅雨の人

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コンコンッ

「小雪、食事の時間だ。行くぞ。」 

「はい…。」 

私の膝裏に腕を入れて抱き上げた亮真様は、食事の間にそのまま入ってから私を席へおろしてくださいます。 

そのまま無言で二人で食事をしてそれから再び私を抱きかかえた亮真様は私を部屋へ運んでくださいました。 

もう数週間ほどこのようなことが続いておりますが何度されても私が慣れることもなく、使用人達の生暖かい目にさらされながら真っ赤になる顔をうつむけるしかないのです。 

「後は頼んだぞ。」 

「はい、お任せくださいませ旦那様。奥様、それではご入浴の準備が整いますまでお待ちくださいませ。」 

転ばないように慎重に浴室へと入る私には必ず使用人がつきそってくれます。 
 

「奥様、力加減はいかがですか?」 

 

お風呂上りにはひきつる足の筋肉はもとより全身を使用人の千絵がマッサージしてくれるようになりました。 

「気持ちいい…」 

「ふふふっ。そうおっしゃっていただけてようございました、奥様。」 

「ありがとう。」 

「とんでもございません奥様。あ、奥様少し席を外させていただきますね。」 

「どうしたの?」 

 

急に千絵が持ち場を離れるのは珍しいことですので不思議に思っておりますと、大きな暖かい手が私の腰のあたりを包み込みました。 

明らかに千絵の掌の倍はあり、ふわりと香る石鹸の匂いで誰かが分かります。 

ここ最近ずっと抱きかかえてくださるおかげで亮真様の匂いがすぐにわかるようになりました。 
 

「あの…亮真様のお手を煩わせるなんて…」 

「気にしなくていい。それよりも力加減が難しいな。このくらいでいいか…?」 

どういたしましょう。お風呂上がりで何も身に着けておりません。臀部を布でかろうじて隠せているかいないかですので恥ずかしくて仕方ありません。 

 
「小雪、痛くないか?あとはどこら辺を揉めばいいんだ?」 

「亮真しゃま…っあ…あのっ…ではふくらはぎを…」 

「…。」 

私のお願いを聞いてくださった亮真様はふくらはぎを無言で、これ以上ないくらいやさしく丁寧にもんでくださりました。


「ありがとうございました。あの…亮真様…?」 

「着替えを…」 

「え?…」 

「着替えを手伝おう。ほら袖を通すぞ。」 

「いえ、それは…。」 

「ほら…」 

「は…はい…」 

「この紐はここに通すんだな…うん、これでいいか。」 

「あの…亮真様、もうこれで大丈夫ですので。亮真様も今日もお疲れでしょうからどうぞお休みになられてくださいませ。」 

「…今日は私もここで寝る。」 

「え?」 

「嫌か?」 

「いいえそんなことはございませんが…」 

有言実行とばかりにさっさと私の隣に横たわる亮真様を見て戸惑いを覚えてしまいます。 

「小雪、頭を。」 

「頭…ですか?」 

「私の腕の上に君の頭を。」 

「亮真様の腕の上になんて…そんな。」 

「…腕枕というものらしい。」 

「腕枕…ですか?」 

「ああ。だから、ほら。そう、もっと私によって。大丈夫だ。重くないし私も暖かくて気持ちい。」 

「そう…ですか…」 

ちらりと亮真様をうかがうとすでに目を閉じておられました。お疲れなのでしょう。亮真様をおこさないようにそっと頭を動かそうとするとすぐに亮真様に抱きしめられてしまいました。 

胸の鼓動が激しくなります。これでは緊張して眠れないと思っておりましたのに、気が付けば朝までぐっすりと眠ることが出来ておりました。 
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