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亮真3
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初夜以降、小雪は自分の部屋で寝るようになった。私も小雪に無理強いをしたくはないというのは建前で、初夜以降琴葉義姉さんのもとに行っていた件で気まずくて自分の部屋で寝るようにしていた。
あの時琴葉義姉さんのもとに行くことを選んでしまった私は、小雪との夜の夫婦生活において大きな禍根を残してしまったようだ。
しかも夫婦となってから同じ屋根の下に暮らす新婚夫婦である私たちは会話どころか食事さえも共にしていなかったとようやく思い至った。
兄さん夫婦を招いた夕餉の席の後、私が小雪との初夜の後ずっと義姉さんとともにいたことを兄さんに言わないように小雪に口留めしていた義姉さんの会話を聞いてしまった。こうして義姉さんの言っていることを聞いていると自らの行いがおかしかったのだと確信し後悔した。
その後、兄さんは琴葉義姉さんと私に烈火のごとく怒りをぶつけ、そして呆れていた。
それはそうだろう。
しかし愚かな私は、そんな状況でもあの時せめて小雪が琴葉義姉さんのことをフォローしてくれていたら兄さんもそこまで義姉さんを怒ることはなかったのにと少しだけ考えてしまった。
私は小雪の部屋に足を向けた。
部屋に入るとそこにいた小雪の眼もとが真っ赤になっていた。
小雪の涙を見て再び自分の傲慢さに嫌気がさした。何とも後味の悪い気持ちに襲われた。
小雪が泣いていた。―――わたしに失望してしまったのだろうか。
分かり切っているのに涙の意味を確認する勇気もない私はその後小雪が気になって仕方なかった。
◇◇◇◇
それからしばらくして琴葉義姉さんの誕生日の祝いに呼ばれた。
義姉さんに買い物に連れまわされた経験のある私は義姉さんの欲しそうなものは大体理解しているので、仕事の合間に街に一人で買いに出かけた。
小雪も一緒に選びたかったのだろうかとふと思ったが、それ以上気に留めることはなかった。
そして琴葉義姉さんの祝いの場で、小雪は窓際に座り太賀兄さんと楽しそうに過ごしていた。楽しそうに――。
私と夫婦になってから一度も見せてくれていない笑顔を兄さんに見せていた。太賀兄さんもなぜ義姉さんのそばにいてやらないんだと内心腹立たしく思った。
琴葉義姉さんが小雪と兄さんをちらちらとみているのになぜ気が付かないのかと。
小雪が足をく負傷したことに気が付けない私とは違い、兄さんはとっくに気が付いており医者まで手配していた。小雪を抱き上げ颯爽と会場を出ていく兄に無性に腹が立った。
いつ小雪がこんなことになったのか全く見当もつかなかった。
しばらくして冷静に考えてみると、車から降りた時私が小雪に手を貸さずさっさと先に歩いて行ったせいで足首を負傷したのだろうと思い至った。
そう、私のせいで。
寝室で横たわった小雪を目の当たりにしながら、医者との会話を思い出し罪悪感に襲われた。
あの時琴葉義姉さんのもとに行くことを選んでしまった私は、小雪との夜の夫婦生活において大きな禍根を残してしまったようだ。
しかも夫婦となってから同じ屋根の下に暮らす新婚夫婦である私たちは会話どころか食事さえも共にしていなかったとようやく思い至った。
兄さん夫婦を招いた夕餉の席の後、私が小雪との初夜の後ずっと義姉さんとともにいたことを兄さんに言わないように小雪に口留めしていた義姉さんの会話を聞いてしまった。こうして義姉さんの言っていることを聞いていると自らの行いがおかしかったのだと確信し後悔した。
その後、兄さんは琴葉義姉さんと私に烈火のごとく怒りをぶつけ、そして呆れていた。
それはそうだろう。
しかし愚かな私は、そんな状況でもあの時せめて小雪が琴葉義姉さんのことをフォローしてくれていたら兄さんもそこまで義姉さんを怒ることはなかったのにと少しだけ考えてしまった。
私は小雪の部屋に足を向けた。
部屋に入るとそこにいた小雪の眼もとが真っ赤になっていた。
小雪の涙を見て再び自分の傲慢さに嫌気がさした。何とも後味の悪い気持ちに襲われた。
小雪が泣いていた。―――わたしに失望してしまったのだろうか。
分かり切っているのに涙の意味を確認する勇気もない私はその後小雪が気になって仕方なかった。
◇◇◇◇
それからしばらくして琴葉義姉さんの誕生日の祝いに呼ばれた。
義姉さんに買い物に連れまわされた経験のある私は義姉さんの欲しそうなものは大体理解しているので、仕事の合間に街に一人で買いに出かけた。
小雪も一緒に選びたかったのだろうかとふと思ったが、それ以上気に留めることはなかった。
そして琴葉義姉さんの祝いの場で、小雪は窓際に座り太賀兄さんと楽しそうに過ごしていた。楽しそうに――。
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いつ小雪がこんなことになったのか全く見当もつかなかった。
しばらくして冷静に考えてみると、車から降りた時私が小雪に手を貸さずさっさと先に歩いて行ったせいで足首を負傷したのだろうと思い至った。
そう、私のせいで。
寝室で横たわった小雪を目の当たりにしながら、医者との会話を思い出し罪悪感に襲われた。
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