見捨てられたのは私

梅雨の人

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私を振り向いてほしい 

私に一度でも琴葉お義姉様にするように笑いかけてほしい 

亮真様に私との会話を楽しんで頂きたい

愛してほしい 

一緒に…いてほしかった 

胸の内からあふれるこの気持ちを私はどうしたら楽になれるのでしょうか。 
 

亮真様は日付がかわってから帰宅されたようです。どうしても寝付けない私は寝たふりをして目を閉じておりました。私の部屋へ静かに入ってこられた亮真様は私の近くまで来られました。 

「小雪…お休み…」 

亮真様は囁くように小さな声でそう言うと私の目じりに浮かんだ涙に気が付いたのか指で拭われてから、すぐにご自分の部屋へと戻っていかれました。 

お医者様がおっしゃられたように強い痛み止めのおかげで昨晩は数時間ですが眠ることができました。
しかし今は痛み止めの効果がきれたのでしょう。ズクンズクンと足が痛んでおります。

考えますと昨日は昼から何も食べておりませんでしたが、空腹を感じません。とにかく箪笥の上に置いてある薬をと思いますが、呼び鈴がなぜか見当たりません。 

「仕方ないわね…」 

 

 

杖で歩くのが初めての上に足をぎちぎちに固定されております。時間をかけてどうにかバランスを保って立ち上がることができました。 

「案外難しいのね…」 

立ち上がることが出来たはいいのですが、今度は思うように前に進めません。 

「あと少し…あっ!」 

「っと、何をしているんだ。声をかけても返事がないから来てみれば…。使用人はどうした?」 

「いえ…その…今呼ぼうかと思って」 

「なぜ呼び鈴がこんな遠くに置いてあるんだ?」 

バランスを崩して倒れかけた私を抱きとめてくださった亮真様は、その後私をタカさんに預けてから部屋を出て行かれました。 

◇◇◇◇


琴葉お姉さまのお誕生日のお祝いから一週間が過ぎました。 

今日も窓際に移動してもらった寝台に横になったまま外を眺めたり、編み物をしたりして一日をやり過ごしております。 

亮真様と夫婦になって、この屋敷の管理だけは任されていますが、足が治るまでは何もしないようにと亮真様に言われてしまい少し落ち込んでおります。 


軽いノックの後、亮真様が部屋を訪ねてきてくださいました。 

妙子さまとの思い出のガラス細工にちらりと目をやった亮真様は、最近、私に一日に一度、本やら取引先から貰ったというお菓子などを携えて顔を見せに来てくだるようになりました。

特におしゃべりをするわけでもなく、それらをタカさんに渡すとさっさと部屋を出ていくのですけれども、きっと私を気遣って下さっているのでしょうか。  

私の部屋は屋敷の二階にあって見事な庭園がよく見える位置にあります。 

偶然かもしれませんがありがたいことです。 


「奥様今日もようございましたね。」 

「ええ、タカさん。それでは今日は頂いたこの本を読んでみようかしら。」 

「ええ、それと庭師が旦那様に指示されて急遽花をたくさん植えているだとか。ほら、あちらとか、そちらとか…」 

「まあ、本当に。とても綺麗ね…」 

まさか亮真様がこの会話を聞いて扉の向こうで安堵のため息を漏らしているなんて私は知る由もありせんでした。 
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