見捨てられたのは私

梅雨の人

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楽し気な笑い声に包まれた会場を窓際で眺めていると、目の前が真っ暗になりました。 

「やあ、小雪さん。よく来てくれたね。」 

そう言って目の前の椅子に腰かけた太賀お兄様はさわやかな笑みをこぼされました。 

「太賀義兄様。失礼いたしました。少しぼうっとしていました。お恥ずかしいですわ…。」 

「いいさ、気にしなくて。今年の誕生日は大勢を呼んで祝いたいと琴葉がうるさくてね。--ここだけの話、私と仲の良い人物はほとんどいないから小雪さんを見つけてほっとしたんだ。」 

そう言って口角をあげた太賀お兄様に私もふっと笑みをこぼしてしまいました。 

人見知りなどしそうにない太賀お義兄様のこと。きっと私に合わせてくれているのでしょう。そのやさしさがじんわりと心を温めてくれます。 

「喉が渇いたね。何か飲みたいのはあるかい?確か果実酒のおすすめのやつがあったからもってこよう。確か小雪さんは多少甘いものが好みだったよね?少し待っててくれ。」 

そう言って颯爽と歩いて行った太賀義兄様を見送ります。あまり接する機会などございませんでしたのに、よく私の好みをご存じだと感心いたします。 

太賀お義兄様は会話がとても上手で、話下手な私でも気が付けばたくさんお話をさせて頂いておりました。 

「小雪さんとはあまり互いをよく知る機会もなかったから、こうしてゆっくり話せて本当にうれしいよ。」 

「恐れながら私も同じ気持ちです。お義兄様。」 

「そうか、それはよかった!」 


はにかんだように頷いてくれる太賀お義兄様といるのはとても居心地よく感じてしまいます。 

どれくらい太賀義兄様とお話をさせて頂いたのでしょうか。 

 
「いつからそんなに仲良くなったのかしら?太賀ったら妻の祝いの席なのにちっとも私のところにきてくれないんだもの。ねえ、亮真さん?」 


気が付くと琴葉お義姉様と亮真様が私達を見下ろすように並んで立っておられました。 
「小雪さん、義理とは言っても、ねえ?距離感を間違えてしまったら周囲に勘違いされてしまうわ。気を付けてね?」
 

「勘違いしたい奴にはさせとけばいい。気にしないでくれ小雪さん。」 

琴葉お義姉様のおめでたい日だというのに、お義兄様ご夫婦の間に不穏な空気が流れしまいました。 

「お義姉様、申し訳ございません。ついつい太賀お義兄様とのお話が興味深くて話し込んでしまいました。ご迷惑をおかけしました。」 

「そんな。私は別に怒っているわけじゃないのよ?あなたの為よ。ね?」 

にっこりと笑顔を向けられたままですがその言葉通りに受け止めることはどうしてもできません。 

ちらりと目を向けると亮真さまは黙ったまま私に視線を向けておられます。残念ながらその表情から亮真様の考えていることが理解できるほど亮真様のことを存じ上げておりません。 
 

「はははっ」 

「何よ太賀。急に。どうしたのよ。」 

「いや、お前たちにそんなことを言われるとはな。」 

「どういう意味、太賀?」 

「そのままの意味だ。と、準備が出来たようだ。小雪さん。亮真はいまだに気が付いていないみたいだ。出来たら亮真に気が付いてほしかったんだけど。私ですまない。失礼するよ。」 

「えっ…太賀お義兄様?きゃっ!」 

ふわりと体が浮き上がると視界が急に広がって、気が付けば太賀お義兄様のたくましい腕に抱きかかえられておりました。 
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