見捨てられたのは私

梅雨の人

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無情にも時間は悲しむ者を待ってくれるわけではございません。

妙子さまを失って悲しくても、亮真様と琴葉お義姉様の仲睦まじい様を目の当たりにし深く落ち込んでも、朝起きて屋敷の女主人として為すべきことをして就寝する。
日が昇って日が暮れて一日が終わりそれらを繰り返すだけの日々を送っております。 

悲しみもむなしさもこれ以上深く考えてもどうしようもなくて、考えないようにこれ以上傷つきたくなくてただ流されるがままの時間で癒される時が来るのをじっと待ちます。それ以外にはほかの方法など思いつかないのでございます。 

実家から嫁入りと同時にこの屋敷に持ってきた鳥かごへ目を向けます。 

二羽が今日も並んで寄り添っております。 
「ほら、今日も庭のお手入れが良くされていますよ。とても眺めがよい部屋を用意していただけて私たちはとても幸運だわね…。」 

こうして今日も一人で小鳥に話しかけておりますと外から楽しそうな声が聞こえてまいりました。 

聞き覚えのある声で、心の中では見るなと警報を鳴らしているのに目をそらさずにはいられませんでした。 


「亮真さん、何度見ても見事なお庭ね。この花なんて見事だわ。」 

「はははっ。琴葉義姉さん。先日も同じことを言って感激していたじゃないか。まあ、琴葉義姉さんの美しさにはかなわないが。」 

「まあっ、亮真さん。こんな見事な花を手折ってしまって。そんなことをしてくれなくてもいいのに。」 

「いいさ、どうせたくさん花を咲かせているのだし。一輪だけと言わず後から庭師に花を届けさせよう。」 

「申し訳ないわ。」 

「これくらいさせてくれよ。」 

「亮真さん…」 

 

「本当にお二人はお似合いだわ…ねえ、小鳥さん…」 

見つめあわれるお二人は恋人同士のように寄り添われております。お二人とも私の部屋から見える場所だということをお忘れなのでしょうか。 
それとも気にも留める存在でもないと思われているのでしょうか。

「好きなところに飛んで行ってもいいのよ?」

バサバサッ 

「あっ…」  

初めて大空を飛ぶことの叶った二羽の小鳥が飛んでいくのをしばらく眺めておりました。 

夕方からゾクゾクと悪寒を感じておりまして、夕餉をお断りいたしました。案の定熱を出した私は次の日になって起きるのが遅いと、唯一心配して様子を見に来てくれたタカさんによって発見され、寝台の上で時間を過ごすことになりました。 
 

夢の中でひんやりとした何かが私の手をぎゅっと握りしめております。それが何だったのか得体のしれないもののようでうすら寒さを感じておりました。 

お医者様から3日間安静にと診断を受けましたので、部屋でおとなしくしておりました。 

タカさんが伝えたようで亮真様が扉の前まで訪ねて来てくださったのですが、病気がうつるといけませんからとやんわりと入室をお控えしていただきました。 


正直どんな顔で亮真様にお会いしてよいのか見当もつかないのです。 

その代わりといって亮真様は私に花を贈ってくださいました。 


「タカさん、申し訳ないけれどその花をそっと庭に戻してきてちょうだい。折角綺麗に咲いていたのをわざわざ私のようなもののために手折ってしまって申し訳ないのだけれど。」 

何も言わずに頷いてくれたタカさんも、もしかしたら昨日の日中の亮真様と琴葉
お義姉様を見ていらしたのかもしれません。 

琴葉お義姉様に差し上げてらした同じ花を頂けても嬉しくないと感じる心の狭さを自ら認めるしかありません。心がじくじくと痛みます。 

この屋敷では藤堂の屋敷とは違い、進んで私のような女主人の世話をしたいというもの好きな方はタカさんしかいなくなってしまったようで、しばらく一人きりの静かな時間を過ごしました。 

 
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