見捨てられたのは私

梅雨の人

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「失礼いたします、奥様。朝食をお持ちいたしました。-ー小雪奥様っ?」 

使用人のタカさんの少し焦ったような声が隣の夫婦の寝室から聞こえてきました。まさか初夜を終えた夫婦が各自の部屋でくつろいでいると思わなかったのでしょう。申し訳ないやら情けない気持ちで再び夫婦の部屋にいるタカさんに声を掛けました。 

「タカさん、こっちよ。」

「奥様、ああどちらに行かれたのかとびっくりいたしました。朝食でございます。亮真坊ちゃま、…いえ申し訳ございません。旦那様から朝食を奥様にお運びするよう言付かっておりました。つい先程、何か急用ができたとかで慌てて出かけられましたが…。まったく。」 

タカさんは夫婦の寝室に朝食を持ってきたのにそこに私がいなかったことには触れずに接してくれております。 
しかしその後、多くの使用人たちの憐れみの視線がチクチクと刺さってまいりました。 

亮真様と最後にまともに会話をしたのがいつのことだったのかも思い出せません。たいした会話もないまま初夜を終えた朝から亮真様が自宅に戻ってきておりませんでしたので、どちらに行ったのかも何をしているのかも何もわからないのです。

夫婦となりこうして同じ屋根の下に暮らしていくはずですのに、会話もないうえに亮真様がいないだなんて皮肉なものです。 

夫婦になったのだからこれから亮真様と今まで会えなかった分、一緒にいられたならと願っておりましたのに。 

心細く新しい屋敷で過ごして一週間になったその日、亮真様から夕食を共にしようと伝言が届けられました。昼過ぎには戻ってこられるそうです。どうやら太賀お義兄様と琴葉お義姉様もいらっしゃるという事で、とにかくこの屋敷に来て初めてのにぎやかな食卓となりそうです。 

◇◇◇◇

「改めて、小雪さん。亮真をよろしく頼むよ。慣れないことも多いと思うがいつでも私たちを頼ってくれ。」 

「ええ、小雪さん。太賀の言う通りよ。遠慮しないでいつでも私に声をかけてね?」 

「ありがとうございます、太賀お義兄様、琴葉お義姉様。」 

食後、亮真様は太賀義兄様と、私達とは少し離れたところでお酒をたしなまれていて、私は義姉様とお茶を共にしております。 

お姉さまはカップを置くと薔薇の花のように鮮やかに微笑みました。 

「ごめんなさいね、新婚早々あなたと亮真さんを引き離してしまって。太賀があなたたちの結婚式の直後に急用で出かけてしまって今日やっと戻ってきたの。太賀がいなくて心細くって…。

新婚なんだし気にしないでって言ったんだけど、ずっと亮真さんがうちに顔をだしてくれていたの。びっくりしたわ。結婚式の次の日の朝にはもう訪ねてきて。朝食を食べずに来たなんて言うから一緒に頂いたの。もう本当に亮真さんったら心配性なんだから。

昔から亮真さんは変わってないのよね。それで…、今回のことを太賀が知ってしまったらすごく怒りそうだから。太賀に誤解を与えたくないの。だから今日はこうやってこちらに押し掛けてきて先に小雪さんにこうしてお願いしているんだけど…。

初夜が終わってすぐに亮真さんが私のもとに来て、一週間もこちらの屋敷に帰ってきてないなんて絶対に太賀に言わないで頂戴?ね、いいでしょ?小雪さん?…ねえ、小雪さん聞いてるの?」 

 
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