見捨てられたのは私

梅雨の人

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「なんだって?閉店まで?小雪、君は私を待っていたのか?私は君に行けそうにないと早くに使いを出したはずだ。」 

「いえ、使いの方は私が屋敷に戻った際に血相を変えていらっしゃっておりましたが。」 

「そんなはず…ああ、すまなかったな小雪。あの日は兄さんが屋敷にいなくて。義姉さんが寝込んでしまってどうしても私についていてほしいと放してくれなかったからつい…。」 

「お義姉様とあの時一緒にいらしたのですね…放してくれなかった…ですか。」 

「ああ、いや、そういう変な意味ではないぞ。もちろん。とにかく、折角の祝いの日に何も食べなかっただなんて。いや違うか、俺がすっぽかしてしまった…すまなかった…」 

「それは…。その後は義姉様の具合も回復されたのでしょう。本当によろしかったですね…」 

あの時の私の気持ちをお伝えしたら亮真様を困らせてしまうでしょうか。私よりお義姉様をお選びになっていたという事実に足元から崩れ落ちそうでございます。
それに特別な日にあのような場所で一人で食事だなんて惨めで…寂しいではないですか…ましてやお祝いのお言葉一つさえありませんのに…。 それなのに…


すべての言葉を呑み込んでしまったらこれ以上何も言えなくなってしまいました。 

沈黙が亮真様と私を包み込みます。 



「…それでは…失礼いたしますね。」 

「待ってくれ、小雪」 

咄嗟に亮真様に腕を引きとどめられました。 

なぜ亮真様が傷ついたような顔をされるのでしょうか。 

こんな時でも、やっと亮真様に話しかけてもらえその大きな手で触れていただいただけで鼓動が早まってしまう自分にあきれてしまいます。 

これは亮真様にとって特別な意味のある行為ではないのだと強く自分に言い聞かせます。 

 

「申し訳ございません、少し言いすぎてしまいました。折角のおめでたい日ですのに。今日は亮真様にお会いしてこうして言葉もようやく交わせてよかったです。やっと、…やっと元気そうな姿を確認できただけでも安心いたしました。お祝いの言葉だけでもお伝えできて本当によかった…。」 
「…小雪…」 

これ以上の情けない姿を亮真様に見てほしくない気持ちでいっぱいの私は、今度こそ車に乗り込みその場を後にいたしました。 
 
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