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「小雪、我が藤堂家が別に大河内家と縁を結ぶ必要はない。現に向こうから是非にと小雪を望まれただけだ。私は小雪のことを大事にしてくれる伴侶と幸せな人生を送ってほしいと思って、…あの男なら任せてもいいかと思っていたのだが少し違ったようだ。
このことを踏まえて小雪に聞きたい。
ーー小雪は大河内亮真と夫婦になりたいか?ーー 」
「私は…私は、…亮真様をお慕いしています。亮真様と婚約者になってからずっと亮真様に見合う女性になりたいと努力してまいりました。それは、亮真様の婚約者としての務め…いいえ、亮真様に少しでも好意を向けていただきたいからです。それに…いつも無口な方ですがそれでもお会いすると何気ないやさしさを感じてしまうのです。それが…それがとても嬉しくて… 」
「そうか…。」
折角お兄様のおかげで楽しい時間を過ごしておりましたのに、こんな話になってしまって申し訳なく思ってしまいました。
◇◇◇◇
それから数日後、亮真様の使いの方がお手紙を持っていらっしゃいました。
『君の誕生日の日に予約していた店から請求が来ないので不思議に思っていたが、問いただせば君自身が支払ってしまったというではないか。今度埋め合わせをさせてくれ。』
期待してはいけないとわかっておりましたのに、もしかしたらまた以前のようにお茶にでも誘っていただけるのかもと愚かにも思ってしまった自分が嫌になってしまうのでした。
◇◇◇◇
あれからまた月日は流れ、暖かな日が続いております。
桜の花も満開を迎え、藤堂家の敷地の桜も見事に花を咲かせております。
「お兄様、よろしければお花見に一緒に行ってはいただけませんか?」
快諾してくれたお兄様が、では今から行こうとおっしゃるので慌てて身支度を整えます。
「きれいだなぁ小雪。いつまででも眺めていられる気がする。」
「ええ、とてもきれいですね。お兄様。」
桜を一望できる丘までやってきた私たちは、そこでお茶を飲みながらゆっくりと桜を眺めることにいたしました。
『ああ、とても幸せだ。愛しい君とこうして素晴らしい桜を眺めることができるなんて。結婚式が待ちきれないよ。そうしたら君とこうしていつでも一緒にいられる。』
『まあ、あなたったら大げさね。ふふふっ。』
少し離れた席に座る男女の会話が聞こえてまいります。
「羨ましいですわ…」
「小雪…」
思わずぽつりと零れ落ちた私の言葉にお兄様は眉根をキュッと寄せられておりました。
亮真様はこの満開の桜をどこかで愛でておいでなのでしょうか。
少しは私と一緒に桜を見たいと思ってくれているといいのですが。
出来ればあなたと一緒に見たかったと言ったら亮真様はどのような顔をなさるのでしょうか。
また、忙しいと断られるのでしょうか。それとも返事すら頂けないのでしょうか。
美しい桜を前になぜか気持ちは塞いでいくのでした。
「そういえば小雪、知り合いに小鳥に興味はないか聞かれていたんだった。帰りに見に行ってみようか?」
「小鳥ですか?」
「ああ、なんでも妹さんが嫁ぎ先へ持って行きたかったらしいが、何かの理由で実家に置いていくことになったらしい。そいつは残された小鳥達を持て余していてね。小雪にどうかと聞いてきたんだが。」
「ぜひ見に伺わせてください。」
桜を見に行ったその日、思わず鳥かごに住むかわいい二羽の小鳥が我が家にやって参りました。
このことを踏まえて小雪に聞きたい。
ーー小雪は大河内亮真と夫婦になりたいか?ーー 」
「私は…私は、…亮真様をお慕いしています。亮真様と婚約者になってからずっと亮真様に見合う女性になりたいと努力してまいりました。それは、亮真様の婚約者としての務め…いいえ、亮真様に少しでも好意を向けていただきたいからです。それに…いつも無口な方ですがそれでもお会いすると何気ないやさしさを感じてしまうのです。それが…それがとても嬉しくて… 」
「そうか…。」
折角お兄様のおかげで楽しい時間を過ごしておりましたのに、こんな話になってしまって申し訳なく思ってしまいました。
◇◇◇◇
それから数日後、亮真様の使いの方がお手紙を持っていらっしゃいました。
『君の誕生日の日に予約していた店から請求が来ないので不思議に思っていたが、問いただせば君自身が支払ってしまったというではないか。今度埋め合わせをさせてくれ。』
期待してはいけないとわかっておりましたのに、もしかしたらまた以前のようにお茶にでも誘っていただけるのかもと愚かにも思ってしまった自分が嫌になってしまうのでした。
◇◇◇◇
あれからまた月日は流れ、暖かな日が続いております。
桜の花も満開を迎え、藤堂家の敷地の桜も見事に花を咲かせております。
「お兄様、よろしければお花見に一緒に行ってはいただけませんか?」
快諾してくれたお兄様が、では今から行こうとおっしゃるので慌てて身支度を整えます。
「きれいだなぁ小雪。いつまででも眺めていられる気がする。」
「ええ、とてもきれいですね。お兄様。」
桜を一望できる丘までやってきた私たちは、そこでお茶を飲みながらゆっくりと桜を眺めることにいたしました。
『ああ、とても幸せだ。愛しい君とこうして素晴らしい桜を眺めることができるなんて。結婚式が待ちきれないよ。そうしたら君とこうしていつでも一緒にいられる。』
『まあ、あなたったら大げさね。ふふふっ。』
少し離れた席に座る男女の会話が聞こえてまいります。
「羨ましいですわ…」
「小雪…」
思わずぽつりと零れ落ちた私の言葉にお兄様は眉根をキュッと寄せられておりました。
亮真様はこの満開の桜をどこかで愛でておいでなのでしょうか。
少しは私と一緒に桜を見たいと思ってくれているといいのですが。
出来ればあなたと一緒に見たかったと言ったら亮真様はどのような顔をなさるのでしょうか。
また、忙しいと断られるのでしょうか。それとも返事すら頂けないのでしょうか。
美しい桜を前になぜか気持ちは塞いでいくのでした。
「そういえば小雪、知り合いに小鳥に興味はないか聞かれていたんだった。帰りに見に行ってみようか?」
「小鳥ですか?」
「ああ、なんでも妹さんが嫁ぎ先へ持って行きたかったらしいが、何かの理由で実家に置いていくことになったらしい。そいつは残された小鳥達を持て余していてね。小雪にどうかと聞いてきたんだが。」
「ぜひ見に伺わせてください。」
桜を見に行ったその日、思わず鳥かごに住むかわいい二羽の小鳥が我が家にやって参りました。
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