見捨てられたのは私

梅雨の人

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「いらっしゃいませ。」 

夕食は外で食べようとお兄様に誘われて、お兄様お気に入りのお店に行くことになりました。 

店内は照明が控えめで落ち着いた雰囲気で、私たちはちょうど窓際の街の様子が見渡せる席に案内されました。 


「小雪、今日は本当に楽しかった。私と一緒に出掛けてくれてありがとう。」 

「こちらこそありがとうございました。お兄様のおかげで久しぶりにとても楽しい時間が過ごせました。」 

ほのぼのとした雰囲気の中おいしそうな料理が運ばれてきます。 

 
通常であれば、今日は亮真様の婚約者として一緒に過ごす日に当たりますが、結局いつものことで何の音沙汰もございませんでした。 

いつものようにそれでも連絡があればいつでも私が動けるようにとじっと屋敷で待機しておりましたので、まさかこのような充実した日を過ごせるとは夢にも思っておりませんでした。 
 

「ありがとうございます、お兄様。」 

「ああ。ほら小雪これも食べてみろ?小雪の好きそうな味だ。さすがにあーんしてやれないから、自分で食べるんだぞ?」 

そう言って私のお皿の端にちょこんと載せてくださった料理を見て二人でクスクス笑いをこぼしていたのですが、お兄様がふと鋭い視線を窓の外に向けられました。 

「お兄様、どうかなさったのですか?」 

「小雪、なんでもない。見るな。」 

「でも…」 
 

視線の先には、楽しげに笑いながら寄り添って歩く亮真と琴葉様がおられました。 

亮真様の手には多数の買い物袋が握られており、楽し気に歩くお二人は遠ざかって見えなくなってしまいました。 
 

どうして…どうして… 


いつか亮真様から連絡が頂けるかと一人でむなしく屋敷で待ち続けていた私は何だったのでしょうか。

私といる時は無口であまり愛想が良いわけではありませんのに、琴葉お義姉様とはあんなに楽しそうになさっておられるのですね。 

同じ屋根の下に暮らすというのは、お互いの関係をもっと密な関係にするということなのでしょうか。 

私が亮真様と夫婦になって同じ屋根の下に暮らすようになれば、亮真様も私にあのような笑顔を向けてくださるようになるのでしょうか。 

それにあんなにたくさんの買い物袋を掲げて、今日は長い時間二人で買い物をしていたのでしょう。こんな時間までこのようなな場所で一緒に歩いておられるということは、これからお食事に行かれるのでしょうか。 

私と外出するときは、いつも三時間程度。毎度同じお店でお茶を飲むか、まれに買い物に行っても一軒立ち寄ってお終いですのに。 

本来なら今日は私と過ごす日だったはずですのに。お伺いの手紙には相変わらず返事もなくて。それなのに…どうして…。 

せっかく、せっかくお兄様のおかげで楽しい日を過ごすことができておりましたのに。 

息を殺して涙をこらえることが――――こんなに辛いものだとこの時初めて知ることができました。 
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