見捨てられたのは私

梅雨の人

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屋敷に戻ると、亮真様の仕えの者が蒼い顔をして出ていくところでした。 

「おかえり小雪。」 

「ただいま戻りましたお兄様。先ほどの方は一体なんと…」 

「ああ、見たのか。あいつが今日も忙しくて行けなくなったからと使いを出したのがつい先ほどだと聞いた。私も腹が立ってね。聞いたら小雪のもとに行こうにも店が閉まっていたから慌ててこちらに来たのだと言っていた。こんな日にお前を一人であんな場所で何時間も待たせた挙句、私が小雪のもとで車を待たせてなかったらどうなっていたか…。腹が立って仕方ない。」 

「…お兄様にそういって頂けてうれしいですわ。でも私大丈夫です。きっと亮真様はすごくお忙しかったんだわ…。」 

やさしいお兄様はきっと私を慮って怒ってくれているのでしょう。 
 

「小雪らしいな。わかった。では後日祝い直しといこうではないか。」 

「ええ、お兄様。楽しみにしています。今日は…少し疲れましたのでこれで失礼いたします。」 

おやすみなさいと立ち去る際に、お兄様が亮真様からだといって手紙を渡してくださりました。 

『申し訳ないが今日は急用ができていけなくなった。好きなものを注文してくれて構わない。支払いは私が後日行うので気にしないでくれ。』 

渡された手紙は間違いなく亮真様からのものでした。 

手紙は私の掌からするりとすり抜け床に落ちてしまいました。
 

寝台に一人横になって、今日の昼前に姉の清子お姉さまが旦那様と子供たちと一緒にわざわざお祝いに来てくださっていたのをふと思い出しました。 

『お誕生日おめでとう。今度は私とも一緒に出掛けて頂戴ね。今日は亮真様と素敵な時間を過ごせるといいわね。』 

微笑んでそうおっしゃられていた清子お姉さまの方にそっと手を添える清子姉さまの旦那様とかわいい子供たちに囲まれたお姉さまはとても幸せそうに微笑んでいらっしゃいました。 

私も亮真様と夫婦になって早くこのような幸せな家庭を築いていきたいと強く思っておりますのに涙が頬を伝うのを止めることはできませんでした。 

ずっと目をそらしてはどうにか知らんぷりをしておりましたのに、蓋が少しずれてしまって私の心を不安にさせる靄に包み込まれたような気分でなかなか寝付くことができませんでした。
 

結局その年、お祝いのお言葉を亮真様からいただくことはありませんでした。 
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