見捨てられたのは私

梅雨の人

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「ほらそこにも、琴葉義姉さん足元に気をつけて。ああ、ここもだ。しっかり私の腕につかまって。」 

「亮真さん、そんな子ども扱いしないでほしいわ。いつまでたってもやさしい亮真さんのままなのね。あら、きれいなもう椿が咲いているわ。」 

「ああ、本当だ。珍しいな。ああ、義姉さんはまた。そうやって花を手折ってまでして匂いを嗅ぐ癖は相変わらずなんだな。ああ、ほら、袖が枝に引っ掛かりそうだ、気を付けて。」 

「あっ、本当に。ありがとう、亮真さん。助かったわ。あら、あまり匂わないわ。残念。」 

「ちょっと待って、俺も匂ってみようか。ああ、本当だあまり匂わないな。ああ、またそうやって匂わないからってすぐに捨てようとする。」 

「駄目かしらね。」 

「駄目だ。」 

「そういうものかしらね?」 

「そういうものなんだよ。ほら、行こう。小雨が降ってきた。傘を持ってきてよかった。ほら義姉さんこっちにもっと寄って。濡れない?行こう。足元に気を付けるんだぞ?」 

「そんなに傘を私のほうによこしたら亮真さんが濡れてしまうわ。?」 

「俺はいいから、さあ、早く。」 

今日は亡くなられた私の親友である妙子様のお墓参りに夫の亮真様となぜか亮真様に会いに来ていらした琴葉義姉さまもそれならばと三人で出かけることになったのです。 

 

急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 

いつものこと、――ただそれだけのことですのに。

当然のごとく琴葉お義姉様の手を引いて歩く亮真様の後ろを一人置いて行かれないようついていこうと足を一歩二歩と足を進めて立ち止まってしまいました。 


ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことですのに…。 
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