愛を知ってしまった君は

梅雨の人

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鈍感で残酷な女

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「ねえ、ジョーンズ。一つお願いがあるのだけれど…。」 

「どうした?ルビー、何でも言ってくれ。」 

「その、温泉に入りたいの…。」 

実はルビーは温泉というものを今まで見たことがなく、ずっと憧れを抱いていた。

友人の話では、温泉というものは普通の浴槽とは異なり、独特なにおいのする温かなお湯で満たされており、そのお湯につかると肌がすべすべになり体の芯から温まることのできるものだと聞かされてからずっと興味を抱いていた。 

夜も更けてきたというのに、なぜだか今晩は全く眠くなる気がしないし、それならば是非温泉というものに入ってみたいと思った。 

「もちろんいつでも入れるようになっているぞ、ルビー。あの隅っこの階段を降りたところが脱衣所になっていて、その目の前にこの部屋専用の温泉があるはずだ。なんならそこまで一緒にいってやろうか?」 

「ありがとう、ジョーンズ。助かるわ。後それから…初めて温泉っていうものに入るのは少し不安で…怖いっていうか。…一緒に入ってくれないかしら…。」 

「ん?」 

「だから…一緒に私と温泉に入ってくれないかしら…その…変な意味じゃなくって…。」 

最後は蚊の消え入りそうな声で顔を真っ赤にしてしまったルビーに、ジョーンズも顔を真っ赤にしてしまった。 


「はぁ~。ちょっとまって、ルビー……。ふぅ…。その、ルビーは本気か?」 

「ええ、こちらからお願いしてるのだから、もちろんよ。」 

「…分かった、ルビー。…じゃあ、このまま行ってみるとするか?」 

脱衣所は当然のごとく必要なものが全て揃えられいた。明るく清潔に保たれており、そこから外に目を向けると綺麗なライトアップと湯気に囲まれた温泉が視界に入りルビーの心を躍らせた。 
 

「その…ルビー。俺はこっちを向いているから準備が出来たら教えてくれ。先に入っていていいから…。」 

「だめよ、ジョー。先に入っててくれないと、一人で先に入るのはなんだか怖いの。お願い、ジョー。」 

「うっ…」

無邪気にお願いしてくる目の前のルビーに深く深くため息をこぼしそうになるのをぐっとこらえて、意を決したジョーンズはさっと服を脱いで準備されていた薄い布を腰に巻いて先に温泉に向かった。 
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