愛を知ってしまった君は

梅雨の人

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気持ちの問題

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「奥様、お茶をお入れしました。休憩いたしませんか?」 

 執務中に手が止まって上の空になっていることに気が付かれていたのだろうと、少し恥ずかしく思いながらも離れの庭に設置されたテーブルへ足を向けた。 

「思い切って執務室も離れに移してよかったわ。本館の執務室でならこうはいかなかったもの。この離れではすぐにこうやって執務室から外の庭に出られて本当に素晴らしいわ。」 

「そうでございますね、奥様。」 

ニコニコと侍女のマリーが相槌を打ってお茶を入れてくれるのを待って問いかけた。 

「ねえ、マリー。子供たちは元気にしているの?」 

「ええ、奥様。上の子は昨年家庭を持ち、下の子はやっと今年仕事が見つかって忙しそうにしております。」 

「じゃあ、家では夫婦水入らずってわけね。ねえ、マリー。私っておかしいのかしら。あんなことがあっても、のこのここの屋敷に戻って来て。」 

「そんなことはございませんよ、奥様!我々使用人一同奥様がお戻りになられて心よりお喜び申し上げておりますのに。」 

 「そうなのね。ふふっ、ありがとう。ねえ、今度少し遠出をしようと思ってるんだけど…そこって、あの二人が旅行に行ったところなのよね。それでも、そこに行ってみたいと思う私っておかしいのかしら。」 

「奥様…。あの二人とは…。ああ…。その、失礼を承知で発言させていただいてもよろしいでしょうか。」 

「ええ、マリー。あなたの意見が聞きたいの。こんなこと母にも相談できないものね…。」 

 「…奥様が行きたい場所があるというのに、戸惑われる理由があのお二人にあるのでしたらなんだかもったいない気も致します。気持ちの問題だとは思いますが、私は奥様の心の向くようにされてもよろしいかと思います。申し訳ございません。このようなことしか言えませんで…。」 

「そんなことないわ、マリー。ありがとう。そうよね…。」
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