愛を知ってしまった君は

梅雨の人

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妻と友人

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馬車に向かって歩き出そうとしたジョーは、突然くるりとルビーに向き直り耳元にささやいた。 

「ルビー、濡らしてしまって悪かった。暖かくして寝るんだぞ?じゃあ。」 

そう伝えて、去り際に頭にキスを落としていったジョーンズが馬車に乗るのを見届けて、離れの自室に戻ろうとしたルビーをノアは慌てて止めた。 

 「ルビー、待って!その…おかえり、ルビー。」 

「どうしたの?ノア。ええ、ただいま。じゃあ、私はこのまま部屋に戻るから。」 

立ち尽くしたノアは、お休みともまたねとも言ってくれない妻は振り返ることもなくいってしまった。



それからというもの、頻繁にジョーンズと出かけるようになったルビーは生き生きとしており、逆にそれを止めることのできないノアはどんどんやつれていった。 
 

「よお、ノア。お前らしくないじゃないか。ちゃんと寝てるのか?」 

ノアの友人のガブリエルが、ノアの不貞の噂が流れて以来、やつれていくのを心配して訪ねてきていた。 

「いいや、寝ようと思っても目を閉じたら後悔に苛まれて、終いにはあの女とまぐわっていたことを思い出して気分が悪くなるんだ。」 

「ああ…それは…」 

「馬鹿だったよ。ルビーを愛してるのにあんな女を相手にしてしまった。 

本当にルビーを愛してるんだ。後悔しても遅いんだろうが、ルビーに嫌われてしまった…。」 

「嫌われたっていうよりは、傷つけたって言った方があっているんだろうけどな…ああ、ごめん。お前の傷を抉るようなことを言ってしまった。まさかお前がこんな状況に陥るとはなあ……。驚いた。それで、奥方は今どこにいるんだ?」 

「ああ…ルビーは…今友人と出かけている。」 

 
あれから頻繁にジョーンズがルビーを迎えに屋敷を訪れるようになった。 

ガブリエルには、ルビーが友人と出かけていると言ったが、その日もジョーンズと楽し気にどこかに出かけていったのを、ノアはただ遠くから眺めるしかできなかった。 

まさか妻が自分以外の男と出かけるようになったなど、口が裂けても言えるわけがなく、悶々とした気持ちになり会話も上の空となっていた。 
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