出来損ないの王妃と成り損ないの悪魔

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
92 / 100

エラルド

しおりを挟む
今日もジュリア夢に見てしまった。 

夢の中のジュリアはとても幸せそうに私に寄り添ってくれている。 

そんなジュリアが愛おしくて夢なら醒めないでくれといつも願うからか、目が醒めて現実に打ちのめされてしまいそうになる。 

あの男の妻となったとあの男が言ったときにそれをジュリアは全く否定してはくれなかった。 

それでもまだ、書類上ジュリアは私の妻なんだ。離縁をした覚えもないし、することも絶対にありえない。 


湖畔に佇む屋敷であの男と一緒に暮らすジュリアは、私にかつて見せていた穏やかな表情をあの男に見せていた。いや、私に見せていた以上の穏やかで幸せに満ちたと言った方が正しいのだろう。それを認めると何ともやるせなくなり、自分が情けなくなる。 

ジュリアに近づきたいのに近づけなくて、気が付けば見知らぬ街に護衛らとともに佇んでいた。それからなんとか王城まで帰りついたのだが、魔法という力でこんなことも出来るのかと、あの男との力の差に呆然としてしまった。 

あれから7年もの月日は流れ、住処を度々移動する二人に我が王国の追手はなかなか追いつけないでいる。弟カストがついに学園を卒業し二年経過した。私は27歳になっていた。

ジュリアがいつ戻って来ても誰にも文句は言わせないし、彼女が安心して居られる国であるようにと努力したおかげで、いつの間にか私は王として地位を確立し安定した生活を国民に与えることが出来ていた。

ここでもまたジュリアのおかげで国民の支持を再び得ることに成功していた。とにかく常に十年先を見越して、私にできることはすべてやり遂げた。 

ついに時間がかかったがようやく弟カストに王位を譲位する準備が整った。 

『そうなるかもしれないと思っていましましたよ、兄上。不器用ながらもおのれの過ちに向き合った兄上は立派でしたよ。さすが私の自慢の兄上だ。義姉上を探しに行かれるのでしょう?心置きなく探してきてください。私も、私をいつも気遣って下さった義姉上が無事にしておられるのか心配ですからねからね。どうぞ兄上お気をつけて。』 

そう告げてきた弟に私は力強く頷いた。 

 

これで心置きなくジュリアを探しに行ける。私を支えてくれた者たちに、これまで苦労を掛けた、感謝してもしきれないと礼を述べた。

私の退任を惜しんでくれた側近に感謝の気持ちを再び述べ、カストに王位を譲った。 

『王妃ジュリアの献身のおかげで私が王として国を守ることが出来ていた。その王妃の献身をないがしろにして側妃を娶った自らの罪と、その側室が税金を無駄に使っていたことに長く気が付かなかった王としての罪、それから王妃を守れずに最後には犠牲にしてしまった罪を取って退任する。王妃は国民のために尽くしてくれた。そして私のためにもずっと尽くしてくれた素晴らしい王妃だった。出来損ないではない、私にとって唯一無二の王妃であり妻であった。』 

私は国民の前で王妃ジュリアの献身と私の過ちを公表した。 

国民は驚くこともせず静かに聞いているだけであった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】純白のウェディングドレスは二度赤く染まる

春野オカリナ
恋愛
 初夏の日差しが強くなる頃、王都の書店では、ある一冊の本がずらりと並んでいた。  それは、半年前の雪の降る寒い季節に死刑となった一人の囚人の手記を本にまとめたものだった。  囚人の名は『イエニー・フラウ』  彼女は稀代の悪女として知らぬ者のいない程、有名になっていた。  その彼女の手記とあって、本は飛ぶように売れたのだ。  しかし、その内容はとても悪女のものではなかった。  人々は彼女に同情し、彼女が鉄槌を下した夫とその愛人こそが裁きを受けるべきだったと憤りを感じていた。  その手記の内容とは…

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

初恋の結末

夕鈴
恋愛
幼い頃から婚約していたアリストアとエドウィン。アリストアは最愛の婚約者と深い絆で結ばれ同じ道を歩くと信じていた。アリストアの描く未来が崩れ……。それぞれの初恋の結末を描く物語。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

処理中です...