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「セーレ…」
今日もお腹と背中に消毒を塗って包帯を巻きなおしております。
私の巻き方がよくないのでしょう。いたるところが緩くなってしまったり隙間が空いてしまったりしてしまうので何度も何度も巻き直しています。
あの日の夜、なかなか寝付けない私はいつものように暖炉の前の長椅子で夜を過ごしていました。
セーレがいつもくつろいでいたこの長椅子にいることでセーレの気配を感じることが出来ていたのです。
突然嵐がやってきたのか空にはいつの日か見たあの魔空間が広がっていてそこからセーレが落ちてきました。
結界の中にある庭に落ちてきたとはいえ、セーレを抱えることなど到底できない私は引きずるようにしてどうにかセーレを屋敷の中へ、そしてこの暖炉の前まで連れてきました。
血だらけのセーレを目前にして頭の中が真っ白になってしまいましたが、セーレからいただいた指輪を使って消毒薬、包帯、熱さましの道具などを夢中で出現させて看病している間にいつの間にか朝を迎えておりました。
セーレがが空から落ちて来てずっと肩で息をして苦しそうにしているのに、このような深手の傷にどう接していいのか大した知識を持たない自分がもどかしくも腹立たしい時間をどのくらい過ごしたでしょう。
セーレの真っ黒な髪から靴のつま先まで血でがべったりとこびりついているのを、気が付けば朝日が無情にもきらきらと映し出しておりました。
陽の光で診るセーレの顔は夜のランプの明かりで見る顔色よりも青白く、これではいけない、助けを呼びに行かなければと結界を出る決心をしました。
「セーレ、待っててくださいね。必ず助けを呼んでまいります。」
結界の外に一人で出て行くのは初めてですので、不安がないと言えばうそになります。
セーレの少しうねりの入る黒髪を優しく撫でていると涙がこみ上げてきました。
泣いている場合ではないのに…
「絶対に助けて見せるわ…」
後ろ髪惹かれる想いで立ち上がって結界の前で大きく深呼吸をしました。
「どこに行くんだっ…うぅっ…」
「っセーレッ…」
「どこに行こうとしてんだっ?絶対にここにいるように言ったろ?お前一人で結界の外に出たらあぶねーだろが。…ぐっ…」
「セーレッ…でもっ…」
「…っ…肩かしてくれ」
「はっはいっ」
ずっしりとのしかかってくるように体を預けてきたセーレをどうにか支えて暖炉の前に戻ってきました。
「ぐぅっ…」
「い…痛い…痛いですよね…セーレっ…どうしようっ…」
「おい、ジュリア」
「どうしましたかセーレッ…」
「帰ってきたぞ…そしてお前はどこにも行くな…」
「帰っ…はいっ…はいっ、お帰りなさい。お帰りなさいセーレ…お帰りなさいっ…」
はっ、無事…とはいいがたいが約束は守ったからな、そう言って少し笑ったセーレは再び瞳を閉じてしまいました。
それからはセーレは再び混沌と眠りにつきました。
セーレの傷口を消毒して包帯を巻きなおし、それからタオルを絞って体を拭いて冷たく絞ったタオルを頭の上に何度も何度も置きなおします。
徹夜で看病してもその晩も疲れているのにどうしてもセーレが気になってしまいます。
帰ってきたときに比べると清潔な包帯と服に包まれているせいか、若干セーレの顔色もよく見えてきました。
安心してしまったのでしょう。暖炉の薪がゆっくりと燃えて行く音とセーレの静かな寝息に耳を傾けていると、いつしか私も眠りについていました。
今日もお腹と背中に消毒を塗って包帯を巻きなおしております。
私の巻き方がよくないのでしょう。いたるところが緩くなってしまったり隙間が空いてしまったりしてしまうので何度も何度も巻き直しています。
あの日の夜、なかなか寝付けない私はいつものように暖炉の前の長椅子で夜を過ごしていました。
セーレがいつもくつろいでいたこの長椅子にいることでセーレの気配を感じることが出来ていたのです。
突然嵐がやってきたのか空にはいつの日か見たあの魔空間が広がっていてそこからセーレが落ちてきました。
結界の中にある庭に落ちてきたとはいえ、セーレを抱えることなど到底できない私は引きずるようにしてどうにかセーレを屋敷の中へ、そしてこの暖炉の前まで連れてきました。
血だらけのセーレを目前にして頭の中が真っ白になってしまいましたが、セーレからいただいた指輪を使って消毒薬、包帯、熱さましの道具などを夢中で出現させて看病している間にいつの間にか朝を迎えておりました。
セーレがが空から落ちて来てずっと肩で息をして苦しそうにしているのに、このような深手の傷にどう接していいのか大した知識を持たない自分がもどかしくも腹立たしい時間をどのくらい過ごしたでしょう。
セーレの真っ黒な髪から靴のつま先まで血でがべったりとこびりついているのを、気が付けば朝日が無情にもきらきらと映し出しておりました。
陽の光で診るセーレの顔は夜のランプの明かりで見る顔色よりも青白く、これではいけない、助けを呼びに行かなければと結界を出る決心をしました。
「セーレ、待っててくださいね。必ず助けを呼んでまいります。」
結界の外に一人で出て行くのは初めてですので、不安がないと言えばうそになります。
セーレの少しうねりの入る黒髪を優しく撫でていると涙がこみ上げてきました。
泣いている場合ではないのに…
「絶対に助けて見せるわ…」
後ろ髪惹かれる想いで立ち上がって結界の前で大きく深呼吸をしました。
「どこに行くんだっ…うぅっ…」
「っセーレッ…」
「どこに行こうとしてんだっ?絶対にここにいるように言ったろ?お前一人で結界の外に出たらあぶねーだろが。…ぐっ…」
「セーレッ…でもっ…」
「…っ…肩かしてくれ」
「はっはいっ」
ずっしりとのしかかってくるように体を預けてきたセーレをどうにか支えて暖炉の前に戻ってきました。
「ぐぅっ…」
「い…痛い…痛いですよね…セーレっ…どうしようっ…」
「おい、ジュリア」
「どうしましたかセーレッ…」
「帰ってきたぞ…そしてお前はどこにも行くな…」
「帰っ…はいっ…はいっ、お帰りなさい。お帰りなさいセーレ…お帰りなさいっ…」
はっ、無事…とはいいがたいが約束は守ったからな、そう言って少し笑ったセーレは再び瞳を閉じてしまいました。
それからはセーレは再び混沌と眠りにつきました。
セーレの傷口を消毒して包帯を巻きなおし、それからタオルを絞って体を拭いて冷たく絞ったタオルを頭の上に何度も何度も置きなおします。
徹夜で看病してもその晩も疲れているのにどうしてもセーレが気になってしまいます。
帰ってきたときに比べると清潔な包帯と服に包まれているせいか、若干セーレの顔色もよく見えてきました。
安心してしまったのでしょう。暖炉の薪がゆっくりと燃えて行く音とセーレの静かな寝息に耳を傾けていると、いつしか私も眠りについていました。
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