出来損ないの王妃と成り損ないの悪魔

梅雨の人

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地響きと共に山々がどんどん崩れて行きます。真っ青だった空にはいつの間にか熱く真っ黒な雲が渦巻き、その雲から雷鳴が轟いております。 

 

空を見上げると遥か上空にセーレともう一人が対峙しているのが見えました。 

二人の動きがあまりにも早すぎて状況がつかめません。 

ほんの一瞬ですが、上空に渦巻く空間が現れ赤黒い光が怪しくセーレともう一人の方の姿を照らし出しています。 

気が付けば先程セーレが私にくれた指輪を無意識にぎゅっと握りしめておりました。 

 これまで以上の轟音が急に上空に轟き、セーレの動きがぴたりと止まりました。

対峙している男の方も動きを止めてセーレにゆっくりと近づいて行きます。

ニヤリと口角を上げた男の唇は真っ赤で、その手がセーレの腕に伸びて行きます。

「セーレ…っ!」 

まるでセーレの体が操られ、ひきずられるようにしてもう一人の方と共に渦の中にその姿を消してしまいました。 

 

◇◇ 

 

セーレが魔界の渦の中に消えてしまって一月が過ぎました。 

セーレの居ないたった一人だけの世界で、 言われた通りに屋敷から出ないで生活しています。

 

いつ死んでもいい、一人でも孤独でも何でもいいからいなくなりたい、あれ以上辛いことはないと信じていましたけど、セーレがいない毎日が…こんなに辛いだなんて。

セーレがいなくなってから不安で不安で夜も眠れなくなりました。 

セーレがいた時のように、指輪を額につけては魔法を使って丸テーブルに料理を並べ、猫足の浴槽を温かな暖炉の前に出しては泡だらけの湯に浸かってみます。 

『大丈夫だ…とは思うが、もしもの場合だ。絶対にここから出るなよ。わかったかジュリア?』 

『はい、セーレ。その…お帰りをお待ちしています。お気をつけてセーレ。』 

『…ああ。』 

 

思い出すのはセーレとの最後の会話で、セーレが必ず帰ってくるのだと自分に何度も言い聞かせています。 

そうしないと不安で押しつぶされそうになるのです。 

 

セーレと対峙していた者の背中にはセーレによく似た大きな翼が生えておりました。 

恐らく…セーレは魔界に連れていかれたのでしょう。 

私はただセーレとの約束を守ってここにじっとして、セーレがいつか帰ってくるのを待つことしかできないのです。 
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