出来損ないの王妃と成り損ないの悪魔

梅雨の人

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一瞬で私の衣装がするすると脱がされて行きます。 

「えっ…あっ…」 

「何うろたえてんだよ、ジュリア…っ…」 

うろたえる私の声に振り返ったセーレは、ハッとして再びバスタブと反対の方に視線を戻してしまいました。 

「あー悪かった。…早く泡ばかりの湯に浸かってくれ。」 

言われるままにお湯に浸かります。 

「入ったか?」 

「ええ、セーレ。とても気持ちいいです。温かい…」 

「そうか。」 

そういうとセーレは暖炉の前にある浴槽を挟んだソファーに腰かけワインを飲んでくつろくつろぎ始めました。私は異常なほど高く盛り上がった泡からどうにか顔を出して頭を浴槽のへりにもたれかかりました。 

暖炉の薪がパチパチっとたまに音を立てるだけでとても静かな時間が過ぎて行きます。 

「みゃあ」 

「猫?猫の声がしませんでしたか、セーレ?」 

「…したなあ。ああ、なるほど。」 

「えっ?きゃあ?!」 

突然浴槽がわっさわっさと泡をばらまきながら暖炉の前をぐるぐるぐるぐる動き出します。 

「ちょっ!えっっつ?!きゃあぁぁっ!!」 

「ぶははははっ!!!!!猫足のバスタブだったのかよ!!!こりゃあおもしれ―!!」 

突然動き出した猫足のバスタブにしがみついて泡だらけになっているのに、セーレが笑っているのにつられていつの間にか私も声を出して笑ってしまっていたのでした。 

◇◇ 

 

この山頂に住むようになって一年ほどが経ちました。 

暖炉のパチパチする音と炎がセーレはお気に召したらしく、私は編み物を、セーレは長椅子に寝っ転がって目を閉じていました。 

 

セーレに毛布を掛けようと立ち上がって振り返ったときには、セーレは神妙な顔をして私の目の前に立っておりました。 

「ジュリア、少し厄介な奴が来た。良いか、絶対にここから出るなよ。もし俺に何かあった場合はこの指輪を使え。お前が食いてえものやほしいもの位、一生分は出せるようにしておいた。ただ思い浮かべて指輪でお前の額を触れるだけでいい。」 

「セーレ?」 

「大丈夫だ…とは思うが、もしもの場合だ。絶対にここから出るなよ。わかったかジュリア?」 

「はい、セーレ。その…お帰りをお待ちしています。お気をつけてセーレ。」 

「…ああ。」 

ひゅんっとその直後にセーレは消えてしまったのでした。 

 
◇◇
 

「よお、ったく面倒かけさせやがって。お前をしつこく追っていった女が羽を焼かれて魔界に落ちてきて、やっぱりお前は人間界に行ったのだと確信を持った。お遊びはお終いだ。帰るぞセーレ。」 

「兄上、俺は魔界には帰らない。」 

「何言ってんだお前。王族の自覚がねえのかよ。ここに来るだけで大変だったんだぞ。いっそがしーのによ、ちょっとは役に立つような働きしろよ」 

「兄上にも父上にも悪いが俺ははもう役には立たない。何せ成り損ないの悪魔王子だからな。もういいだろ?俺なんかに構わなくても兄上たちだけで十分じゃねーか。帰れよ。」 

ドゴオッツ 

 

「痛ってーな。はっ!なんだセーレ、俺を殺ろうとしてんのか?それで自分は魔界に戻らねえか…本気なんだな?」 
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