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エラルド

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それからカストは今日もジュリアの行っていた仕事をすべて肩代わりするために戻っていった。本来なら側妃であるロレッタが少しでも行うべきところなのだが。 

過去に戻れるものならなどと物思いにふけりたくとも、すべきことが山積みで立ち止まる時間などない。やっと一日が終わり一人寝台に横になると、そこにいるはずのジュリアがいない現実を突きつけられて目をつぶってみても考えるのはジュリアのことばかりだ。 

いつしか私のことを陛下と呼ぶようになったジュリアは決して私のことをエラルドと呼ぶこともなければ、疲れていても見せてくれていたはにかむような微笑みも見せてくれることはなくなっていたなと胸が苦しくなる。 

どうにかしなければ、別にロレッタを側妃として迎えたと言って、ジュリアがどうでもいいなどというわけでもなかった。 

むしろジュリアのことが愛おしいと思う気持ちに嘘偽りはなく、大切な存在であることに変わりはなかったのだ。 

それなのに、あの時、生贄として私はジュリアを差し出す決断を下してしまった。 

あの時、ジュリアの表情は『無』だった。 

何の感情も映し出さぬ顔で、決して私を振り返ることもなかった。 

私がジュリアをこんな状況に追いやってしまった。 

これまでにも辛い思いばかりさせてきたというのに。 

 


いくら王宮から捜索の手を尽くしてもなかなかジュリアはみつからない。 

周辺諸国もこの事態を重く見て、失望したと表明を出した国々は多く、しかし、わが国民が苦しむことになればジュリアが悲しむだろうと現状を維持する計らいが次々と下されたのだった。 

ここでもジュリアに私たちは救われたのだ。 

その存在は大きく、大陸最強と呼ばれる隣国の皇帝陛下でさえも動かしてしまった。 

私はそんな類稀な素晴らしい王妃を易々と手放した愚王だとして国民からも近隣諸国からも評価が地の底までに落ちてしまった。 

ジュリアの献身があってからこそ私が国王として立っていられたのだと、分かっていた結果がこれだ。 

努力家で、人の心配ばかりする不器用なジュリア。 

夢中になりすぎて私を心配させるジュリア。 

その笑顔で私の心をいつも溶かすジュリア。 

いつまでたっても戻って来ないジュリアを待ちながら、ロレッタを側妃として娶っても絶対にジュリアは私から離れることはないと、どこかでたかをくくっていた罰が当たったのだと思った。 
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