出来損ないの王妃と成り損ないの悪魔

梅雨の人

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一層大きく轟く魔空間に導かれるようにして足を一歩踏み出すジュリアに最後に伝える言葉も出てこなかった。喉を絞り出すように妻の名前を、ジュリアの名前を叫ぶので精いっぱいだった。 

今更ながらなんてことをしてしまったのかと後悔が私に押し寄せてきた。

ジュリアが魔空間に向き合い一歩一歩進んでいくのを周囲がかたずをのんで見守っているのが分かったが、これで自分らが救われるのだと、期待を込めている空気が同時に伝わってきた。

この期に及んで、なぜジュリアが生贄にと納得いかない私だったが、心の奥底では私もみなと同じような期待をジュリアに抱いていた。 


たかがジュリア一人、出来損ないの王妃一人の命でこの国が助かるのだからと、少ない議論の時間でジュリアが生贄になることに皆すぐに同意したのを思い出す。

ジュリアが城の屋上に引っ張られるように連れていかれるのを見て、これ以外に他に何か方法がなかったのかと罪悪感で息が浅くなった。

他に方法があるかもしれないと、国王としての威厳をかなぐり捨ててでも、ジュリアが生贄になるのを止めるべきだたのだろう。 


真っ黒な大きな羽をもった男が魔空間から現れ、その腕にはジュリアを抱いて夕刻のオレンジ色に染まった空に優雅にはためいていた。

大きな羽の生えた人間など昔から王家に伝わる魔族についての言い伝えで聞いたことがある程度で、その現実を受け入れるのに思考が停止してしまった。その間にジュリアはその男に連れられて、そのまま空のかなたに飛び立ってしまっていた。 

そしてその日、私はジュリアを失ってしまった。 

結果から言えば魔空間はそのままなくなった。ジュリアが生贄にならずとも穴がふさがったことで、疑問が浮かんだ私はその後影を使い調べさせた。 

その後占師の告げたで出まかせが宰相の仕業だと判明して怒りがわいた。なぜ占師のお告げをまんまと鵜のみにしてしまったのかと。 

しかも、宰相は自らの娘である側妃ロレッタをジュリアがいなくなったからと王妃に挿げ替えるべきだと強く私に勧めて来た。
ジュリアがいなくなったばかりであるというのにだ。

むろんその時は断ったが苛立たしい気持ちを抑えきれなかった私は自室の飾り棚を凪落した轟く魔空間に導かれるようにして足を一歩踏み出すジュリアに最後に伝える言葉も出てこなかった。喉を絞り出すように妻の名前を、ジュリアの名前を叫ぶので精いっぱいだった。 

今更ながらなんてことをしてしまったのかと後悔が私に押し寄せてきた。

ジュリアが魔空間に向き合い一歩一歩進んでいくのを周囲がかたずをのんで見守っているのが分かったが、これで自分らが救われるのだと、期待を込めている空気が同時に伝わってきた。

この期に及んで、なぜジュリアが生贄にと納得いかない私だったが、心の奥底では私もみなと同じような期待をジュリアに抱いていた。 


たかがジュリア一人、出来損ないの王妃一人の命でこの国が助かるのだからと、少ない議論の時間でジュリアが生贄になることに皆すぐに同意したのを思い出す。

ジュリアが城の屋上に引っ張られるように連れていかれるのを見て、これ以外に他に何か方法がなかったのかと罪悪感で息が浅くなった。

他に方法があるかもしれないと、国王としての威厳をかなぐり捨ててでも、ジュリアが生贄になるのを止めるべきだたのだろう。 


真っ黒な大きな羽をもった男が魔空間から現れ、その腕にはジュリアを抱いて夕刻のオレンジ色に染まった空に優雅にはためいていた。

大きな羽の生えた人間など昔から王家に伝わる魔族についての言い伝えで聞いたことがある程度で、その現実を受け入れるのに思考が停止してしまった。その間にジュリアはその男に連れられて、そのまま空のかなたに飛び立ってしまっていた。 

そしてその日、私はジュリアを失ってしまった。 

結果から言えば魔空間はそのままなくなった。ジュリアが生贄にならずとも穴がふさがったことで、疑問が浮かんだ私はその後影を使い調べさせた。 

その後占師の告げたで出まかせが宰相の仕業だと判明して怒りがわいた。なぜ占師のお告げをまんまと鵜のみにしてしまったのかと。 

しかも、宰相は自らの娘である側妃ロレッタをジュリアがいなくなったからと王妃に挿げ替えるべきだと強く私に勧めて来た。
ジュリアがいなくなったばかりであるというのにだ。

しかしそれもこれも私がジュリアを裏切りロレッタと体の関係を結んでしまった結果なのだから、表立って強く言えなかった。

むろん私はロレッタを王妃にすることなどないと宰相に断ったが、苛立たしい気持ちを抑えきれなかった私は自室の飾り棚に飾っていた者を乱雑に薙ぎ落としてしまっていた。

ガシャン問われたそれは写真立てで、婚約していた時にジュリアが黄色のデイジーを押し花にして飾ったものだった。

「そのままのエリオットが大好きよ。」

そう言って黄色のデイジーをくれたジュリアは自分で言ってるくせにテレに照れていて、私まで真っ赤になってしまった想いでの花だ。


辛い時もずっと私に寄り添いわが身を削ってでも尽くしてくれていたジュリアを裏切ってしまった結果がこれだ。 
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