出来損ないの王妃と成り損ないの悪魔

梅雨の人

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「髪の毛をほどくぞ。…なんだこれは…こんな…いつまでもこんなことしていたら頭も疲れるだろ?…痛かったんじゃないか?なぜこんなきっちきちに引っ張って結わえているんだっ、赤くなってるじゃないかっ…」 

鏡が目の前になくてよかったと思いました。私のせいでこんな悲痛な声をお兄様に出させているのだと思うと直視できるはずもありません。そんなお兄様の声は抑えきれない怒りに震えておりました。 

「お兄様、私なら大丈夫ですわ。それよりも…執務室に戻らなければまた書類の山が増えてしまいますわ…」 

「至らない兄で済まない、ジュリアっ…何がリベラート公爵家の次期公爵だ。何もできないじゃないかっ…」 

お兄様が下を向いてしまわれましたが、気の利いた励ましの言葉も見つけられない私はお兄様を伴って執務室に戻っていきました。 

二人で黙々と書類を裁いて、それから遅い夕餉をお兄様と頂きます。 

さすがにお兄様がいると夕食も普段貴族が食べるような食事が出てきます。 

「ご馳走様でした。」 

「もう食べないのか、ジュリア?」 

「…あまりお腹が空いていなくて…」 

お兄様に見えないようにサラダの中には死んだ青虫が、スープの中には刻まれた虫の死骸が、パンは私に面した部分だけカビだらけででおまけに魚は腐った味が致します。 

 

「ゆっくり食べていてくださいお兄様、先に執務を始めてしまいますね。」 

そう言って執務を始めた私はお兄様の向ける視線に気が付くはずがありませんでした。 

 

「ジュリア、すまないがそろそろ私は屋敷に戻らなくては。明日から急遽三日間領地に戻ることになったんだ。」 

「そうだったのですね、申し訳ございませんお兄様。お忙しい時にお手を煩わせてしまって。」 

「なに、私がしたくてしていることだ。また戻ってきたら手伝いに来る。」 

次期公爵として忙しいはずのお兄様がこんなに遅くまで私を手伝って下さることに心が痛みます。もしかしたら私よりも忙しいかもしれないのに、私のために――。 そう思っていると急に悪寒が走りました。



「はぁっはぁっ」 

お兄様が帰ってから体の節々が徐々に悲鳴を上げてきました。頭がずきずきと痛んで冷や汗が背中を伝います。 

執務室の隣に備え付けられている簡易の休憩室に鍵をかけて、お兄様が食事で残していった水を一口飲んで横になります。 

「はぁっはぁっはぁっ…」 

暖かな無人島とは違い、比較的涼しい気候のこの国で体の芯まで冷やして入浴してしまったのがよくなかったのでしょう。 

どのみち私の様子を見に来るものなどいないのですからどこで倒れても同じことですが、この部屋に入る際にかろうじて鍵をかけた私はそのまま意識を手放しました 
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